原題:ぼくの地球を守って
1993年12月-1995年2月/日本/各30分
原作:日渡早紀
発売:ビクターエンタテインメント(DVD)
『ぼくの地球を守って』第一話「覚醒め」,第二話「出会い」
見て驚きました。これから幾重にも折り重なりながら成長する物語の種子が、次々と提示される第一話。圧倒的な情報量が、まだ先を知らないものにとっては自然に状況を語り、すでに知ったものには、折々の情景のひとひらまでもに思いを至らせます。むしろ無駄と遊びの多かった原作の序盤がすっきりと整えられて、見るものを一瞬にして物語世界に引き込んでしまう静かな力が、りんと張りつめられています。始めて出会ったのは春。思い返すごとに、仕合せな出会いをしたことに感謝します。
惹かれたのは、坂口亜梨子を演じる白鳥由里のためでもなければ、辛気臭い亜梨子の性格のためでもありません。亜梨子の語り口のおかしさも、魅力のすべてを物語るには瑣末ごとに過ぎないでしょう。本質は、これら枝葉末節を包摂しなお揺るがずそびえる、大樹の幹ともいえる物語の語る力そのものにあります。
ただただやわらかに描かれた第一話は、語り手の話したくて仕方がない、はやる気持ちを抑えるのに必死です。見ればおとぼけな女子高生の日常を描いたに過ぎないなかに、これからの波乱を隠してたわめられた推進力が、端々に顔を出しては見るものを眩惑します。鮮やかなコントラストが物語の冴えを際立たせて、気付けばすでに術中。小林輪の跳躍に、われわれもまた日常の地平を超えるのです。
皆が、あの跳躍を心待ちにしていたのでしょう。過不足ないはずの日常に鈍磨していくのを恐れる余りに、非現実に向かって跳ぼうという気持ちを、輪くんは代弁し、跳んだのです。越えたいと願っている日常を、物語を追うことによって離れ、知らずわれわれは自分という存在への問い掛けを始めます。恐竜という太古の自身を思い、前世にいたる。すべては自らへの問いに収斂していきます。
物語は、まだ芽吹いたばかり。われわれは未だ日常の延長上です。すべてはこれから伸び、繁ってゆきます。ただ待つばかりなる身がもどかしいのです。
評点:4+
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