くらしの中の書

鷺沢萠の書

表題:NHK趣味悠々『くらしの中の書』第6回,「礼状を書く」
放送:2001年5月8日火曜日21時35分から22時
再放送:2001年5月15日火曜日12時から12時25分
NHK教育テレビ


 ワープロやメールが一般的になってきたとはいえ、日常の中で筆を手にしなければならないことはまだまだ少なくない。それは芳名帳であり祝い袋であり、そのたびに書くということを意識させられ、自分の字の拙さに気落ちさせられる。けれど、自分の名前くらいはちゃんと書けるようになりたいものだ。

 講師は杭迫柏樹先生。生徒は、作家の鷺沢萠さんをはじめ、筆に親しんでいたとはいえない初心者ばかり。これから書に親しもうという人たちだ。特に鷺沢さんは、番組の始まった当初、ぶっきらぼうといっていいような気楽さで、ぼつぼつと字を置いていくさまから、ぞんざい萠ちゃんと綽名して親しんでいたくらいだ。字の持つ機能だけを求めて、一字一字への愛着よりも脳裏に浮かんだ文を紙上に移すことに急いでいる。そういう模様が見て取れる鷺沢さんだった。

 ところがどうだろう。折り返しの第六回目放送にして、鷺沢さんの文字はすでに変わっている。文字の美という点ではまだまだいたらないものの、字画に鷺沢さんという人柄が透けるほどに、文字が彼女らしさを語っている。早書きが、とどこおりない思いきったリズムを生み、踊るように軽やかで、むしろ清潔。できてくる書も、沈まず、おごらず、肩はらず、等身大に若々しい。まるで、想像の向こうに走る少年の印象をもってそこにある。

 暑中見舞いの端書が傑出していた。楽しげに、なにかをたくらんでいるかのようなおさえきれない笑みでもって書かれた端書は、十センチ十四センチに収まらない世界を作っていた。簡潔な文面ながら人柄が良く現れ、無駄も飾りもなく、あるべきものがすべて揃って、あれをもらったものはどれほどに嬉しく思うだろうか。そういう魅力にあふれている。最後に記された署名が白眉、抱き締めたくなるほどにかわいらしい「萠」だった。

 今は、とにかく鷺沢さんの著作が読みたい。負けずに書に頑張りたい。そう思わせる、瑞々しい書だった。


評点:4


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公開日:2001.05.11
最終更新日:2001.08.29
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