原題:Sliding Doors
1997年/イギリス・アメリカ/95分
監督:Peter Howitt
この映画を一言で表すなら――そうそう、人間万事塞翁が馬だろう。些細なことがきっかけになって別れ別れになる運命。そのどちらが不幸でどちらが仕合せかなんて、みだりに決めつけてしまってはいけない。だって先におこることなんて、神ならぬ僕らに分かるはずもないんだから。
ヘレンにとってその日は最悪のオンパレードだった。会社を首になったうえに、恋人は浮気。ただ、地下鉄に間に合ったかどうかが彼女の運命を分ける。恋人の浮気に気づかなかった人生、あるいはそれを知ってしまった人生。そのどちらが、彼女にとって仕合せな人生だったのだろうか。
映画は、彼女のふたつに分かれてしまった運命のそれぞれを追いながら進行していく。ふたつの可能性は交錯しあいながら、似た顔を見せるのに、でもまったく違う結末へと収斂する。この結末を前に僕たちは、些細な出来事に翻弄される人生の悲しさと、それでもその時々をよりよく生きるしかないという現実を、あらためて確認することになるだろう。結局人生は、今をどのように生きるかという、その一点にかかっている。それさえ忘れなければ、辛い人生であっても、どうにか渡っていくこともできるかも知れない。
映画は、とどのつまり、ハッピーエンドだったのだろう。語られることのないヘレンのこれから。そこに彼女の失われた可能性が再現するに違いない。そう信じるうちに物語は閉じられる。人生の転機は一度ではない(原題のドアが複数であることに注目)が、その度に一喜一憂しながらでも前に進めばいいし、そうするヘレンの明日は、きっとよいものであるだろう。
だから僕らも、不幸の度にくよくよしないで。まだ打つ手があるかも知れないし、肝心の結末も知らないままだ。その時々のベストを尽くせば、きっと道は開けると信じよう。モンティ・パイソンいわく、まさかのスペイン異端審問。それを人生の指針と仰いで、きっと前を向いて進んでいきたい。
評点:4+
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