おねがい朝倉さん

穏やかに感じる魅力、朝倉さん結婚して!

『おねがい朝倉さん』1巻
大乃元初奈
(MANGA TIME COMICS)芳文社,2002- 年。


 中折れ四コマ誌に載っているものは、どれもこれも同じような話ばっかりなんだけど、それでもこの漫画は傑出していた。似たようなのはほかにもいっぱいあるよ。けれど僕は、ほかでもなくこれを待ち続けていたのだと思う。

 じゃあ、なにが違うというんだろう。主人公女、朝倉カオル。さっぱりとした性格で、ちょっと天然はいってるOL。仕事は敏腕、いろんなことによく気が付くしっかり者だが、恋愛に関してはからっきし鈍感で、でもそんな彼女にまわりの男女はべたぼれ。きわめつけのようによくある設定じゃないか。けど、やはりどこかが違うのだ。

 端的にいえば、キャラクターの描き方がうまいのだ。描き方といっても、見た目じゃない。その中身、表現についてのことだ。朝倉さんの、気取らず飾り気もないが、やり手で、天然で、そして人から好かれるということ。言葉で説明するのは至極簡単、実際作中においてもそのように説明されるし、誰もがこの美点を言語的に捉えることはできるだろう。だが、どれほどに説明がされたからといって、はたしてキャラクター自体からその美点が感じられなかったらどうだろう。絵に描いた餅、有言不実行じゃ、一体誰が魅力を感じるだろう。けれど、朝倉さんは違う。絵に描かれただけの人物のはずが、よくよく身近に感じられ、その親しさがたまらない。

 そつなく押さえるところは押さえていて、決して極端には走らない。地味なんだけど、その地味さの中に人を引き付ける良さを、この漫画自体が確かにもちあわせている。作品自体から朝倉さんの良さを感じるし、そしてそれこそが作者自身の個性なのだろう。この点において、本作は久々のヒット、大佳作だ。しかし、まだまだ定型的な紋切り型が見えるところが残念。もう少し、そう、それこそ神田のようなしたたかさを身に付けて、いささか毒を振る舞って欲しいと思う。

 作者は、これがデビュー作なんだって。先が楽しみのひとことだ。


評点:4-


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公開日:2002.01.09
最終更新日:2002.01.09
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