宇宙家族カールビンソン

B級にはB級の味、でもこれは逸品

『宇宙家族カールビンソンSC完全版』全十一巻
あさりよしとお
(アフタヌーンKC)講談社,1999-2000年。


 見た目はのどかでほのぼのとしているのだけれども、そのかわいらしい外見に騙されてはいけない。作者はあさりよしとお。そう、たちが悪い。

 コロナという女の子を取り巻く疑似家族と、その周囲で起こる事件を描くコメディであるのだが、見どころはあちこちにちりばめられたパロディだ。それこそが本作の味、しかしとんでもなく激辛だ。対象は映画(それもかなりマニアックな方面まで)からゲーム、社会風刺めいたものまで広く、パロディのもとねたを知るものなら、きっと楽しめること請合いだろう。ただしねたが分かればの話だが……

 ねたが難解過ぎるとか、マニアックすぎるとか、そういうわけではないのだ。たしかにマニアックではあるものの、同じ時代を過ごしてきたものならある程度は知っているだろうものが大半。なので後は、どれだけそれらを記憶しているかにかかってくる。ある意味時事的なねたともいえるそれらは、今となってみてみれば遠い過去の時間をもフラッシュバックさせて、感慨深くさえあり、再びそれらに触れてみたいという思いにまで至らせる。これらは、その辛辣さとともにある、作者のオリジナルへの愛のためだろうか。

 しかし、パロディやブラックユーモアといった側面ばかりに気を取られていると、肝心なところで本質を見失ってしまう。あくまでも本作は、コロナを取り巻く(ちょっとおかしな)人々の生活を描いた、ホームコメディなのだ。普段こそその色彩は影を潜めてはいるものの、一人の女の子の成長を見守る暖かな視点は偽物ではありえない。むしろ、その普段の無茶なギャグ、過激な表現や言動の合間に時折そっと挿入される遥かな抒情性には、どきりとさせられ、そしてしんみりと心に染みる豊かさを感じさせられるのだ。

 若い人にはお勧めできない、80年代生まれにはかなり厳しいものがあるだろう。けれど、パロディを抜きにしてもよいものはよいのだと、素直にそういっておきたい。


評点:4


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公開日:2001.09.27
最終更新日:2001.09.27
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