演奏能力開発エクササイズ アコースティック・ギター

言い訳もできない充実ぶり

『演奏能力開発エクササイズ アコースティック・ギター――テクニック向上促進プロジェクト』
ジム・ケリー,トモ藤田監修(サム・カワ訳)
(リットーミュージック・ムック)リットーミュージック,2002年。


 私のがきの頃にはポピュラー音楽の本なんてのはほんとに少なくて、いやあるにはあるんだが信頼できそうなのがないのだ。もちろんいいものもあるのだが、それらは読み物としての面白さや充実がよいのであって教本としてではなかった。肝心の教本といえば心もとなく、実践の中でトライ&エラーを繰り返しつつ学ぶ以外になかった。

 ところが時代が進みポピュラー音楽を支える基盤が成熟したおかげで、さまざまな教本が出てきてこの頃とてもいい感じ。悪いのもこの上なく増えたのだが、中に光るものが少なからず見出される。体系がしっかりしていて、技術の習得と語法の紹介そして音楽性の充実まではかれるものがあるのは正直いってうれしい。本書もそのようなうれしくなる良書の一冊だ。

 六つの大分類に分けられ、アルペジオやクラシック、ポップス、ラテン、ジャズのスタイルなど、さまざまな表現のしかたを学ぶことができる。エクササイズは四小節ほどの短いものからちょっとした曲といえるものまで多様で、無味乾燥なものはひとつたりともない。難しいものもあるがその解決法は他のエクササイズ中に用意されているなど、配慮もゆき届いている。一冊を終えるころには、多様な表現法だけでなく基礎的なテクニックも身に付いていることだろう。そして何度でも繰り返すことで、技術に加え音楽性を高めることも可能だ。

 しかしなによりありがたいのは付録のDVDで、映像で各エクササイズの左手押弦、右手弾弦を確認できるんだわ。はっきりいってこれはすごい。お手本があり解決法があり、BGVとしても役立つ。それにとにかく先生がうまい。実用的だけでなく目標にもなってくれて、目下、先生が私のギターヒーローである。

 ただし学べるのは主にフレーズパターンであり、これを実用にするには我々生徒の再構成力にかかっている。しかしこれだけ至れり尽くせりで、うまくならなかったとしたら言い訳のしようもないな。


評点:5


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公開日:2003.06.01
最終更新日:2003.06.01
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