『おたんこナース』全六巻
佐々木倫子/小林光恵(原案・取材)
(SPIRITS HEALTHCARE COMICS)小学館,1995-1998年。
看護の仕事に従事するということ。昔はそれこそ奉仕の精神や慈愛といったものばかりがクローズアップされて、クリミア戦争時代からなにも変わっていないというのが現状だった。それが徐々に技術、知識を求められる専門職ということが世間に流布され、女性の仕事という偏見も薄れてきている。しかし、だからといって本当に看護士に対する偏見が僕の中から拭えたのかといわれると、ついぞ自信がなかったりする。
この漫画では、看護士を聖職とはしていない。あくまでも専門職の一つと捉え、その仕事の中で起こることごとを、似鳥さんの少々過激な行動を通じて、淡々と描ききっている。舞台は病院であるだけに、出来事の多くは生老病死に関わるもの。患者の生き死にに関わる重要な仕事として看護を画く視点は、看護の側ではなくむしろ彼ら看護士を見るわれわれにこそ、考えさせることが多い。
テーマは多岐にわたっている。患者の死、癌告知、患者の精神のケア、それらに加え看護という仕事のアイデンティティを模索するものも多い。そのどれも、簡単に答えの出せない、いわば答えのない問い掛けといえないか。時代やそのときどきの価値によりベストの答えは変化する。現場に立ちあってはじめて問題をリアルに認識し、簡単には出せない答えに逡巡することもたびたびだ。
医師や看護士等の関わる医療に携わる現場では、それら問題は往々に日常に滑り込む。しかし現場では立ち止まってなどいられないだけに、出ない答えや迷いを抱えたままそれらを乗り越えていかねばならない。職業に関わる問題に彼らなりの決着をつけながら、日々を誇りとともに仕事をこなす彼らを、僕は尊敬したいと思う。
いずれ自分も、それら問題を現実のものとして突きつけられる日が来るだろう。その時、僕は彼らとよきパートナーとなれるよう、自分なりの模索を続けていきたい。
なお、一巻巻末に似鳥度チェックがあります。僕は80%でした。
評点:4+
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