『SF/フェチ・スナッチャー』全二巻
西川魯介
(JETS COMICS)白泉社,2000-2001年。
誰にでも多かれ少なかれあるとは思うが、フェティッシュに対する偏愛というものは、それはそれは気恥ずかしく口に出すのもためらわれる。それだけにその喜びやなんかは強烈で、そうそう簡単に捨てたり離れたりできるようなものではないのだ。言い換えれば、それだけ病根が深いということ。人間というのは、どうしようもないねえ。
女子高生、栗本玻瑠のメガネは宇宙刑事である。女子高に潜伏したブルセラ商品型宇宙犯罪者と日夜戦い続けているのだ。異星人たちにとって人間の唾液は腐食性の劇薬であり、日常品に身をやつしたホシをあぶり出すには、それを舐めてみるのが一番簡単で確実な方法だ。よって、玻瑠がそれらフェティッシュを舐めることに対し、なんら疑問を抱く余地のない完璧な前提が出来上がるわけだが、どうすればこういった切れた設定を思いつけるのだろう。この発想力には頭が下がりっぱなしだ。
玻瑠は、そんなこんなでレズでフェチという、とんでもない汚名を着せられてしまう。そりゃ、夜中、学校に忍び込み、上履き型宇宙人のあぶり出しに興じて、もとい尽力している現場を押さえられれば、誤解されてもしかたないわな。それにしてもどうしようもない設定。だが、どうしようもないとはいうものの、この設定が生きていた当初の出来は本当によかった。後に玻瑠の性癖が広く認知、受け入れられてからは、どこにでもあるような、ありきたりの作に堕ちてしまった。
この差は、フェティシズムの持つ背徳的な印象の有無に由来している。いけないことと知りながら、あるいは自分はおかしいのではないかと煩悶しながら。この、抑圧と衝動の果てること無き葛藤が、フェティッシュへの傾倒と熱意をさらに深めていく。
だというのに、今という時代は大抵のフェティッシュに対し寛容になってしまって、市民権を得たフェチという言葉が、安易に使われるまでになってしまった。これはつまらん、本当につまらん。
評点:4
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