Heaven?

僕は、このオーナーについていきたい!

『Heaven?』第一から第二集
佐々木倫子
(BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)小学館,2000- 年。


 淡々とした青年、あたりかまわず個性的すぎる登場人物、そして傍若無人な女。これだけそろって面白くないわけがない。佐々木倫子の、つれなく見せてかなり引っ張る、正体不明な面白さが健在。こんなレストランがあったら、三日にあげず通いたい気になってくる。いや、むしろこのオーナーの元で働きたいというのは無茶な話だろうか。

 行き当たりばったりの言動、あらゆる状況下で貫き通すわがまま。どんな危機に際しても動じない理解不能な自信。危機感もないうえにデリカシーもない。でも、僕はこの人なら信頼できると思う。考えなしに、裏表なく好き放題に発される言葉に、嘘はないと思うから。

 そもそも世の中は表の顔と裏の顔の使い分け。笑いながら嘘をつけるようになって、ようやっとの一人前ではないか。期待と信頼の素振りを餌に、飼いならされているようでは高が知れている。気付かぬうちが華であって、ふと笑顔の向こうに不信が透けて見えればたまらない。なぜこんなところに自分はいるのかと、いっそ非人情の境涯まで物狂ひて駆け出したい衝動にかられる日々が続く。

 この世の果てという名前のレストランは、俗世、人の世をはるかに超越した理想郷だ。そりゃこのオーナーに見込まれれば最後、きっと扱き使われるのだろうが、今だって充分酷使されている。同じ使いつぶされるのだったら、疑いと不安の狭間で心をすり減らす今よりも、信じて愛せる人にまみれて苦労したい。それほどに、佐々木倫子の描く人間は憎めない天真爛漫とした魅力にあふれている。あるいは、この諧謔の裏にある、ちょっとおかしな人たちに対する信頼こそが、佐々木倫子の履歴を語っていないだろうか。

 この漫画を手にしている間だけは、気ぜわしい日常から離れて穏やかにあれる。そう、大事なこととは非日常、いや酒がたくさん飲めることだったか。ともあれ自然はこの芸術を模倣しないだろうか。そんなことばかり考える今日この頃。


評点:4


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公開日:2001.04.25
最終更新日:2001.08.29
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