『ひまじん』1巻
重野なおき
(MANGA TIME COMICS)芳文社,2002年。
人には持って生まれた取柄というのが、誰しもひとつくらいはあるという。としたら、僕のは一体なんなんだろう。僕の取柄、それはひきこもりの才能である――と思う。
そもそもがだ、まったく一歩もうちから出ない暮らしというのが平気なのだ。朝起きる、ビデオを見る、漫画を本を読む、夜になるそして寝る。休みともなればこの生活は徹底して、外に出ないどころか靴も履かない。主婦のかかる鬱の原因として人と会わない生活の辛さというのがあるが、僕なら平気。むしろそういう暮らしを望んでいる。ひきこもりの才能があると自ら言ってはばからない所以である。
この漫画のヒロイン、つぐみの生活はまさに夢の暮らしである。収入はすべて内職、極力家から出ないという毎日は魅力だ。低収入ゆえの食糧危機におちいろうとも、めげず前向きな明るいひきこもり生活。まさしくその吾唯足るを知る生活は、新しいライフスタイルの提言でありこれに共感し憧れるものもまた多いはずだ。酒が飲める幸せ、メシが食える幸せ。眠る場所、語り合う友、たくさんの時間。あとテレビと本!! 確かにこれさえあれば、僕はもうなにもいらない。森川つぐみこそは僕の理想形である。
でも残念ながら現実はこううまくはいかない。在宅ワークへシフトしようと画策したこともあるが、激減する収入という現実を前に計画は白紙に戻された。結局のところ、つぐみの生活は絵に描かれた理想であり、夢物語にすぎないのだ。ただ、その事実を了解しているからこそ、人としてどこか間違っている彼女の生活を暖かく見守りながら憧れ続けることができる。生活における現実味が描かれないところにこの系列の四コマ漫画の神髄はあり、それゆえ疲れさせる現実に対するカウンターとなる。生きる以上はいやでも仕事に出ざるを得ないのが現実というならなおさらだ。
作中には、和久井理沙という仕事への疑問を共有する人物がいる。僕は彼女に共感している。
評点:3+
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