弾けるフェンダー・ムスタング

Charのギターはあまねく音楽を射程に捕えている

『弾けるフェンダー・ムスタング』
ヴィンテージ・ギター編集部編
(えい文庫)えい出版,2003年。


 フェンダー社製のエレキギター、ムスタングは、日本においてはCharというプレイヤーとともに語られてきた……らしい。というのは残念ながら僕がその時代というものを知らないからで、けれどムスタングという名前は聞いたことがあった。しかしどんな位置付けにある楽器かはこの本を見るまではまったく知らない。そんな半端な知識しかない私がこの本を買ったのは、Charのギターひいては音楽に対する情熱があふれているからだ。

 本書はギターの名器を特集するシリーズの一冊である。レス・ポールやテレキャスター、マーティンD-28といった今なお人気の機種が取り上げられ、錚々たるヴィンテージが詳細データをともに紹介されている。だがそういったヴィンテージ、歴史的銘器に興味を持たない人間にとって、それらはデータ以上のものではない。楽器としての価値は高いかも知れないが、むしろ知りたいのは音楽の現場でなにがどのようになされているかという事実であり、弾きも触りもできない銘器が陳列されたところで訴えるものはなかった。

 だから本書は異色である。ムスタングの歴史をうかがわせるヴィンテージがずらりと並べられてはいるが、それらをすべて見過ごしにしても充分に得られるものがある。それはCharのプレイヤーとしての遍歴であり、彼がどのように楽器に向きあってきたか、ステージやレコーディングの現場でなにが行われているか、そしてCharにとってギターがどれほどの重さを持ち、どれほどそれらを愛しているか――。

 彼にとってムスタングとはひとつの手段でしかない。ゆえに話はムスタングにとどまらず、多様に変化しその度に原点に帰ってはその内容を深めてゆく。残念ながらレス・ポール本やテレキャスター本は、この深さを持っていなかった。

 この本はムスタングを題材としながらも、射程はギター全般を捕えている。間違いなくすべてのギタリストにお勧めできる良書である。


評点:4+


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公開日:2003.08.26
最終更新日:2003.08.26
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