「ペリカン・クロッシング」
田渕由美子/入南ナツ(原案・取材)
『YOU』第20巻第16号(2001年 No.17 9月1日号),291-335頁。
タクシードライバーという仕事は、今とても大変らしい。過当競争にさらされ、上がりも少なく、生活のためには勤務時間を増やすほかないという。いざとなればタクシードライバーになって生活を支えようというのは昔の話。これからは、それだけの収入を得るのは困難になっていく。それでも、タクシー業界に身を投じる人たちはいる。
小田川瑠美子もその一人。職を転々とし、最後にタクシードライバーを選んだのは、そこに彼女の目指したい自己像をかいま見たからだろうか。今までは、どこか人に頼ろうとしていた自分があって失敗してきた。そういう自分が心底いやになって、でもあきらめきれないと思ったときに目に映ったのが、タクシー乗務員募集の案内だった。
新しい場所に身を投じ、頑張ろうとする人への応援の声が聞こえる。田渕由美子らしいやわらかさがはんなりとして、メッセージ性を薄めてはいるが、決して声は弱らず静かに心に染みるようだ。なにかを目指すために頑張るということ、それはとても素晴らしい。人によって目指すものは異なり、たとえそれがしあわせという抽象的なもので、なにをどれだけどう頑張れば手に入るか分からないのだとしても、頑張ろうというその心がまず人を陶冶する。少なくとも、あれだけ頼りなかったフランドールのルミちゃんがその心意気だけで変わっていけたのだと思うと、その気持ちの報われんことを、素直に祈りたくなっている自分に気づく。
誰もがしあわせを求めているのに、しあわせに向かってしゃにむに進もうという人は決して多くない。しあわせに向かって頑張ることを決意した人、そしてその道を踏み出した人がいるとすれば、彼らにこそこの作品のもつ心が通じて欲しい。きっと同じく頑張る人の姿を見て、心を支えることも出来るだろうから。そして自分もその声を受けて、踏み出してみようかと、少し頑張ってみようかと。晴れやかに面を上げて進む道を模索してしまう。
評点:3+
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