恋する魂

少々時代掛かって、だがそこがまたいい

「恋する魂」全6回
塩森恵子
『YOU』第22巻第11号,203-245頁;第12号,93-119頁;第13号,199-227頁;第14号,345-373頁;第15号,307-333頁;第16号,317-345頁。


 いうまでもなく私は塩森恵子のファンなのだが、この人の最新作というのがYOUにて連載されている『恋する魂』。いわゆる前世もので、転生した男を追う女という、言葉で説明すればこんなにも陳腐なのに、塩森恵子が描くとこれがどうしてこんなにもロマンティックでよくなるのだろう。前世、転生、神や妖怪魔物といった現実離れこの上ない設定をうまくまとめるどころか、ちょっとこの頃ほかに見なかった出来である。正直この話読みたさにYOUを買っているような有様だったのだが、今回最終話とはいったいどういうことだーっ! 人気なかったのだろうか…… いや、そんなわけはあるまい。だってあんなにもよかったというのに。

 塩森恵子はちょっと現実にはありえないような話を描くのが実にうまく、特にこの数年はその傾向も強かった。現実と非現実の割合を非現実がわ多めに割り振って、しかしそれでも破綻させず、しっかりと地に足つけて進んでいく確かさというが感じられるのは、描こうとしているのが物語の特異さや突飛な設定といった見掛け倒しの部分なんかではなく、その奥に動く人間の感情、――誰かを愛したいと思う気持ちや、受け容れられないことへの悲しさ寂しさなど、だからなのだろう。塩森恵子にとって、物語や設定というものはいわば伝えたいことへの方便みたいなもので、それらの向こうに本質が骨格となって立っているのが見える。骨格がしっかりしていれば、おいそれと不安定に揺れたり傾いたりするものではないと知れる。

 『恋する魂』はシリアスよりもコミカル強めで、そこが楽しく面白かった。コミカルと言っても無闇に軽いわけでなく、塩森らしい重さを持ちながら浮かんで落ちてを繰り返していたその塩梅がよかったのである。ところがいよいよこれからというところで終わるなどとは、正直口惜しくさえある。というなら世の常にならってここはアンケートにて続けてくださいと懇願すべきか――。


評点:4


耳にするもの目にするもの、動かざるして動かしむるものへ トップページに戻る

公開日:2003.07.31
最終更新日:2003.07.31
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。