『家族の中の迷子たち』
鈴木雅子(作画)/椎名篤子(原作)
(YOU特別編集)集英社,1998年。
以前は知られていなかったが、児童を対象とする精神科や神経症の子どもをケアする施設というのがあって、いろいろな問題を抱えた子供たちを治療している。施設、病院とまでいわなくとも、たいていの自治体にはその機能を担う相談所などがあるはずだ。例えば、それは特定の曜日、市役所の一室で開かれていたりする。ご存じない方は市報などを見てくだされば、その案内を見つけることも出来るかも知れない。このように、意外と児童の心理カウンセリングはわれわれの身近にあって、迷ってしまったり、立ち止まったりした子どもたちを受け入れている。
一体、児童精神科の現場とはどのようなものだろうか。この本は、そういった疑問の一部に答えてくれるものだろう。もちろん、現れる事象はごく一部の、特に希有なものに限られている。しかし充分考えるためのヒントにはなってくれる。強迫神経症や夜驚、拒食、不登校。それらの問題は、今の時代、どの子にいつ起こってもおかしくないものだといえるだろう。その時に、その子はそれら行動でもってなにを訴えようとしているのか、どんな問題がその子のまわりに潜んでいるのか。
急速な都市化が進み、かつて子どもを育んでいた地域共同社会は瓦解してしまったといってよい。世帯主は外へ働きに出、夫婦子ども中心の居を構えて独立する。高度経済成長期に出来上がった構図が、家庭像を変質させた。核化した家庭の中で子どもが育てられる時代に踏み込んで、未だに新たな家族のあり方を見つけ出せていないのが、この国の現状だ。
家庭が円満であっても、不安が兆すことがある。ならばなお一層、未だ成熟しない社会において、心理的不安を抱える子どもは増え続けるだろう。彼らは、さまざまなサインで伝えてくるはずだ。それらに応えることの出来る環境を築くのは、医者でもなく行政でもなく、その子らを取り巻く私たち市民なのだということを、強く思っていなければならない。
評点:4
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