『研修医なな子』全七巻
森本梢子
(YOUコミックス)集英社,1995-2000年。
子どものころ、僕は指の骨が腫れたりするような難病奇病を次々と発症しては家族を困らせるような子だったので、すっかり病院になじみが深くなってしまった。しかも症例の少なそうなものを選って患うたちの悪さで、行き着く先は決まって大学病院。おかげで町医者よりも大学病院のほうに慣れた、嫌な子どもになってしまった。
大学病院は病院本来の機能に加え、研究や教育の機能も担っている。珍しい症例が持ち込まれた場合、原因や治療法を明らかにしていくことは医療の発展のために重要なことなので、きっと昔の自分も幾度か研究対象になったりしたのだろう。自分が少しでも医療のために役立ったと思えば悪い気はしない。それに、今から考えると、きっと僕はこれから医療に携わろうとしている人の役にも立ったと思う。
元気に研修医稼業に精を出しているなな子先生は、研修医だけあって経験が浅く、難しいことはまだ出来ない。簡単なことから少しずつ憶えていくのはどの職種でも同じなんだろうけれど、こと医者ともなると人命に直接関わるだけあって、普通の職業では考えもつかないことがどしどし出てくる。それら難題を乗り越えながら成長するなな子先生と一緒に、僕も医者の世界というのを垣間見ていくことが出来るわけで、今まで表からだけ見ていても分からなかったことが分かってくると、いきおい病院が身近に感じられてきておかしなものだ。
思えば、僕もたくさんのなな子先生や荒巻先生に診てもらったに違いない。採血してくれたのも、先生の後ろにいた二人の白衣さんたちも研修医だったのだろう、今となるとよくわかる。たいてい彼らは若くて優しかったりするので、結構好きだった。気さくで、いろんなことを教えてくれたり、注射嫌いをなだめてくれたり、たくさんの迷惑もかけたけれど、それは彼らのことが好きだったからだ。
だから、また患ったら大学病院に行くとしよう。なんというか、お互い様だしね。
評価:3+
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