「さわりで覚えるクラシックの名曲50選」

いわゆる赤本、いかがわしさもなかなか

『さわりで覚えるクラシックの名曲50選――癒し、くつろぎ、感動の名旋律!』
楽書ブックス編集部編
(楽書ブックス)樂書舘,2004年。


 アドルノが見たら卒倒しそうだ。CD二枚百五十分に、お仕着せの名曲がばらばらぎゅうぎゅうに詰め込まれて、ちょっと分かった風になれる解説が付いている。昔からこの類いのあんちょこは引きも切らず、実をいうと私も高校時分に解説全集本を頼りに音楽に親しんでいったのだから、これを入り口に音楽の楽しみを知る人もいるかも知れない。しかしそれにしても、さすがにこれはあんまりだと思うのだ。

 世界の名著をあらすじで読ませようというシリーズが先にあって、その音楽版が本書なのだが、私はそのあらすじシリーズの最初っから苦々しく思っていた。あらすじだけで読んだつもりになるだなんて、一体どこに面白みがあるのか。わずかの時間で多くの読書と同じ効果というのなら、栄養なんかはサプリメントでとれば結構ってなもので、じゃあいっそ点滴で暮らせばいいのに。インスタントラーメンで各地名店食べ歩き気分というか、バスクリンの白いので登別カルルスというか、けど結構売れたのだろう、ついに音楽まであらすじにされてしまった。手軽にも程があるとがっかりする。

 帯には「これが全部頭に入っていたら、音楽ファンとしては相当なものですよ」なんて能天気な文句があって、それはつまり、音楽の愛好家は音楽の断片とささやかな知識の総計でもって計られるとでもいいたいわけか。そもそも本書で紹介されるのは曲中で最も聞きどころとされている部分の極数分だけであり、音楽の全体的把握はもとより不可能にできている。おい、これってどうかな。アニメ感動最終回百連発とかを見て、百タイトルを全部見たつもりになってるにわかおたくの侘びしさがそこはかとなく漂う。だいたいこういう数分の紹介っていうのは試聴盤のやり方で、うちにも試聴盤は数枚あるがみんなただで貰ったもんだぞ。

 あまりに浅くて涙も出ない一冊。これから脱していくならいいけど、満足しちゃうようならつける薬はないといっていい。


評点:0+


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公開日:2004.08.22
最終更新日:2004.08.22
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