千秋ツーフェイス

飾って良し、飾らないのはもっと好し

『千秋ツーフェイス』1巻
柳田直和
(MANGA TIME COMICS)芳文社,2002年- 。


 美人で出来る奥さんと評判の奥田千秋。しかしてその実態はまったくのグータラ主婦であった。完璧とも言える外ヅラ内ヅラの使い分けにより、彼女の本性を知るのはダンナ友和ただ一人である。恐るべし外ヅラパワーは、実の弟にも内ヅラを隠し通してきたほど。それは時速百六十キロを超え、もはや魔術の領域に達している。だが夫友和のほかに千秋の内ヅラを知る我々にとっては、そのグータラに堕落しきった駄目人間千秋の方がなんとも魅力的に映るのである。なにに対しても無精で、無駄遣いばかり得意で、片付けは大の苦手、嫌なことは先送り先送りにするものぐさ者なのに他人には少しでもいい顔を見せたい。って、うわっ、そりゃ自分のことじゃないか。内ヅラ千秋を嫌いになれないわけである。彼女はまさに自分の写しであった――、いや、向こうの方がなにしろ完璧なんだけれども。

 この漫画は、とにかく千秋の内と外での使い分けの極端さである。内外で顔体型まで違うほどの変わりようで、このめりはりが他のおとぼけ奥様ものとは一線を画す主要因となっている。外での活躍、内での怠惰の落差がつくほどに面白い。

 だがそれだけだったら、とっくに飽きられるワンパターンに陥っていたことだろう。なにしろ基本的に展開は同じなのである。しかし作者はそれを逆手にとってしまう。外ヅラの千秋も完璧ではないのである。時に失敗する。それもパターンを散々読者に学習させたうえで、その予測を外してくる。ワンパターンに陥りやすいだけに、それをいかに味付けするかという、繰り返しにしのばせる意外性の妙が実にうまい。

 加えて本作にはパターンギャグのほかに夫婦ものという側面もあって、益体もない奥田家日常が楽しくほほ笑ましい。夫の前では外ヅラ内ヅラの別なしに、千秋は可愛い奥さんなのである。とりわけ内ヅラが可愛いのである。飾らぬところが好いのである。とまあ、今回はこれだけを言いたかったのである。


評点:3


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公開日:2003.01.27
最終更新日:2003.01.27
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