『チュー坊がふたり』
田渕由美子
(講談社漫画文庫)講談社,2000年。
僕が田渕由美子作品を好きなのは、その漫画に描かれた世界が夢見心地だったり優しげだったりするからというのもあるが、作品の合間に垣間見える作者本人の持つ雰囲気を愛しているからなのだ。とくにオトメちっくを経て以降が素晴らしい。語りようといい描かれようといい、まさに彼女こそ僕の想いが描きあげたままの彼女。とにもかくにも田渕由美子は素晴らしいのであります。本物に万が一会うようなことがあってそれで幻滅してもいかんから、これ以上はゆわんでおくけど。
その田渕由美子の子育てを読めるのが、この『チュー坊がふたり』。子育てといっても、思春期の子ども二人を育てた母親の生活エッセイといったほうがそれっぽい。おばさんになってしまった田渕の目から見た日常が、これでもかというのほほんとした筆致で淡々と描写されていて、それが僕には心地よいのであった。のほほんといっても現実離れしているという意味じゃない。むしろ対象に向けられる視線はシビアであり、伸びやかにしてあからさまである。加えてこの人特有の素直にしなやかな自由さが含まれているのだ。つい気持ちが暖かくなり頬が緩むというのも仕方がないことである。
しっかしこの人の描く絵は可愛いなあ。ことに御息女のか子のデリシャス・ファッションのシリーズは、本編を駆け抜けて拾い読みさせるほどに魅力的であった。ああ僕にもこんな娘が欲しいなと思う、こんな家庭を築きたいと思う。主夫願望のある僕にとって田渕の描く田渕像はまさに理想形でさえあり、その家庭もまた然りである。羨みに身を焦がすほどよいものと映るのは、田渕の筆にのせられた家族に向ける情愛が確かであった証拠といってよいだろう。
なので僕は気が急くとき、不安に駆られるときはこれを手に取る。どこから読みはじめてもかまわない、一駒ごとに心持ちが和らいで空しさも消える。優しく充足して読み終える。ああ僕は田渕由美子が好きだと溜息する。
評点:4
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