『ただいま寄生中』
あさりよしとお
(JETS COMICS)白泉社,1999年。
人類を征服しようとたくらむ組織と戦う、十六歳の少女。といえば、非常に王道、ありきたりの流行りものを思ってしまうけれど、作者があさりよしとおときている。まともで済むはずがないというものだ。
のっけから寄生虫だ。人類征服を画策するのも寄生虫なら、組織壊滅に乗り出すのも寄生虫。寄生虫たちに開発された実験兵器が組織を裏切り、戦うという設定にいたっては仮面ライダーのそれ。あさりらしい少々意地の悪いパロディとブラックなユーモアが効いた、ほどよい佳作に仕上がっている。
変身美少女ものとして、セーラームーンの傍流を組むスタイルを選んだのには、作者の意図があると考えてよいだろう。セーラームーンのパロディ本叩きに端を発した一大エロ規制に対するカウンターとして用意された本作は、セーラームーン風の装いであらねばならなかったに違いない。しかし作者も後書きでいうように、寄生虫山盛りが嫌われたか読者アンケートは最下位で、あまつさえエロと認識されなかったため、世間に対する影響は皆無に等しかった。
だが、本来サブカルチャーであったはずの漫画、アニメが消費文化の本流にあふれ出して久しい今、この漫画には独自の価値が見えてくる。セーラームーンに見られた薄っぺらなプロット、それらを無批判に移入する多くの亜流、傍系、二匹目の泥鰌たち。お定まりの筋をお定まりに過ごし、違うのは名前と絵柄だけといった見るも無残な創作の荒廃が見られる時代に、本作はよくカウンターカルチャーとして機能している。特に作中で言及される虫喰い共への批判は、無思考的大衆に対する棘であるゆえに、無批判カルチャーにこそよく効く毒をもっている。
とはいえ、残念なのはその性急さだろうか。あからさまな批判は少々お説教的で、あさりらしさに欠けている。おそらくは時間も余裕もなかったため。それらが与えられていれば、本作はどのように化けたであろうか。それが見たかった。
評点:3-
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