『タケコさんの恋人』全六巻
望月玲子
(講談社漫画文庫)講談社,2000年。
まだバブルの残照が消えやらぬ九十年代初頭。タケコさんは、昼間はバリキャリ、夜はクラブの女王様という、まったく違う二つの顔を引っさげてさっそうと闊歩する。恋人のしーちゃんには振り回されながらも、それでもかっこよさは決して崩さない。ここに当時の女たちが目指した理想像が見え隠れする。仕事も遊びも、そして恋も出来る女。いい男に振り回されることも、ステータスのひとつだったのだ。だが僕はそこに生きた人間味を見ることが出来なくて、正直見損なったかと思った。自立したというふりばかり見せる、結局は見せかけだけの張り子の虎の時代だった。
それが、いずれ大きく向きをかえていく。仕事の出来る女という顔こそ残すものの、クラブ、遊びの比重はしだいに減って、家庭的な顔や駄目な面も見せるようになってきた。ミステリアスでクール一辺倒だったしーちゃんさえ、不安や焦りをあらわに、ユーモラスな顔を見せる。格好ばかりも付けていられないようになって、はじめて本当の魅力というものが見えてきた。
ブランドやステータスといった出来合いの価値にまみれ、本来の自分を覆い隠すのに躍起だった時はもう過ぎたのだ。自分だけの価値、本当の自分を探す旅がはじまり、うわべの信奉から本質へと回帰しはじめる。目に見えるものよりも、その向こうにある本物を見つけたいと人々は思いはじめた。変わることも失われることもない、真正の価値。本作においてそれは愛であり、心から愛しあえる人を見つけるということにほかならない。少々陳腐でありきたりに思われるが、その過程に時代の推移が見える。タケコさんたちは、時代とともに歩いてきたのだ。
とはいえラストの盛り上がりは唐突で、さすがに大風呂敷を広げまくった感がある。地位や名誉という最高度のけれんとびかう雰囲気は、往年のトレンディドラマのそれ。しかし、バブルの残照をうける本作には、この終わりこそ相応しいのかも知れない。
評点:3+
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