『中国いかがですか?』
小田空
創美社,2000年。
それは伴奏合わせにいやいやむかう途上。ふと寄った本屋で吸い寄せられるようにして出会ったのがこの漫画、といえば運命的なものを感じさせるものの、当時中国は僕のなかでかなりのブームでした。論文作成にむかってスパートをかけようというころ。僕は中国思想に傾倒していたのです。そんなときに出会ったのだから、これはもはや運命。いやさ、天命だったのでしょう。
一気に高まる中国ブーム。論文の締め切りはいよいよ迫るというに、思い立ったが吉日と始めた中国語。毎週予習は欠かさず、いやこれを現実逃避とは言ってくれるな。事実、この中国への傾倒があって論文は完成したのです。
さて、この漫画は中国に暮らした作者のエッセイです。中国での暮らしの便利不便や、日本と中国との違いを、ざっくりと深くえぐる鋭さがあって、それが魅力です。しかも、その批評眼は日中双方に向けられており、変な中国ばかりかおかしな日本もとらえています。このスタンスこそが僕を引き付けた根本だと、今になってみてよくわかります。
彼女の行く中国は、上海や北京といった都会ではなく、中国の中でも比較的遅れたところ。電気が止まってみたり水が少なかったりするといった、はっきりいって田舎です。おかしな風物出来事や変な文化を紹介し、ひとくさりの批判を加えるものの、それがいやみと響かずむしろ中国の美点であるかのようにさえ思えるのは、作者の深い愛のためでしょう。時にはいやにもなったはず。けれどそれを楽しんで乗り越えられるのは、たくましさであり、愛にほかなりません。作者は思いの深さゆえに中国に深く分け入り、自ずと批評の目は厳しくなります。けれどその目は温かでさえあるのです。自分の住んでいるところ、時間に、これほど温かな眼差しを向けられる人間が果たしてどれだけいるでしょうか。
この本を読むと、彼女の愛にほだされて、僕も中国へと移住したくなるのです。だから、危険書です。
評点:4+
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