初めてCDを買った日のことははっきり思い出せる。部活の帰りの冬の日、間近に迫った自分の誕生日にと、どれにしようかと迷い続けた一枚を手に取った。帰り際、粉雪が舞っていた夜、僕はまだ高校二年生だった。
それが、CBS/SONYベスト100の「ピーターと狼」「動物の謝肉祭」だった。バーンスタインの振るこれかカラヤンのグラモフォンかと悩んだ末に、こちらを選ばせた理由というのが、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」だった。このあたりが、いかにもかたちから入る僕らしい。吹奏楽部でごろを巻いて数年経つとはいえ、クラシック音楽は敷居が高く、無闇に恐れ多かった。
そのCD屋には、当時クラブ内で絶大な発言力を持っていた、クラシック通で鳴らしていた友人に連れていってもらった。子ども時分からレコードというものに高尚なイメージを抱き続けていた僕は、そのCD屋に入って、上流社会に踏み込んだ思いがしたものだった。気恥ずかしさと妙な晴れがましさとともに何度か通い、ついに最初のCDを手にしたのが、あの冬の日だった。
それから何度聴いたか分からない。This is Leonard Bernstein.
で始まるナレーションの遠くから、少しずつ近づいてくるオーケストラの響き。ほどなく自分がオーケストラの響きのただ中にいると気づく。この取り囲まれ体験で、僕はすっかり音楽にはまりこんでしまった。少しでも理解したいとライナーノートを繰り返し繰り返し読み、そしてまたCDを聴いた。
その連日のくり返し聴のなかで、僕の心を捉えたのが「青少年のための管弦楽入門」だった。今聴けば少々明確に過ぎる作品だが、当時の僕には現れては消える楽器群が、オーケストラへのあこがれそのものに感じられた。ことのほかフーガに引かれ、パーセルの主題を真似してピアノで弾いてみたり。今思い返しても、あれほどに音楽にのめり込んで聴いていた時は他にない。
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