そのひとことが伝える

パトリック・ブリュエル『それでも君に言おう』

Patrick Bruel “J'te l'dis quand même”


Patrick Bruel “J'te l'dis quand même” in: Alors Regarde. (BVCP-189)


 ラジオの語学講座でこの歌が紹介されたとき、取り立てて聞き所があるとは思わなかった。ささやきかけるように静かで、それだけにぱっとしない印象。でもそれは大きな間違いで、何度か聞くうちにすっかりこの歌に引き付けられてしまった。大切なことは、大きな声でいわなくとも伝わるのだと思った。

 ラジオでは一曲をとおして聞くことができないだけに、全部を聞きたいと思うのも無理からぬことだろう。それに、この歌手の他の歌も聞きたかった。ジャンルはフレンチポップスだろうと当たりをつけレコード店に繰り出すも、結果は不作に終わる。この曲が収められたアルバムまで判明したというのに、肝心のアルバムが絶版していたのだった。中古店やネットの売買サイトを探し回るものの、そもそものたま数からして少ないらしく、情報を得ることさえかなわず。あきらめるよりなかった。

 しかし一度は忘れたその熱狂が、フランス語講座で紹介された曲目をまとめていたときに再燃した。手段は以前と同様、オークションサイトや売買サイトくらいしかない。しかし数年の間に機が熟していたというのか。そのCDを譲りますとの申し出があり、念願のアルバムを手にすることができたのだった。

 久しぶりに聞いた「それでも君に言おう」は、はてこんな曲だったろうかと、ひとしきり僕を不安にさせた。あの時の熱狂はなく、間違えたかとさえ思った。だが、たしかに歌われる最後の言葉に覚えがある。なれば当時の熱狂自体が勘違いだったのだろうか。

 大切なことは、大きな声を必要としない。つまりはそういうことだったのだ。派手さはないが実質は揺るぎなく胸に兆し、聞くほどに価値は深まっていく。情感は静かに沸き上がり、熱狂を再び呼び起こした。歌の言葉がひしひしと伝わって、僕はこの歌を愛していると、実感せざるを得なくなるのだ。

 このような曲にはなかなか出会えるものではない。それだけに、僕はこの曲を宝と思う。


耳にするもの目にするもの、動かざるして動かしむるものへ トップページに戻る

公開日:2001.10.09
最終更新日:2001.10.09
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。