Assembly “Steampacket” in: January EP
ジャンルはアメリカンフォークなのだろうが、メインのプレイヤーがアイリッシュスタイルのヴァイオリニストであるためアメリカ色は薄い。音楽を底で支えるピアノはロックピアノのようでもあるし、ドラムなどにはジャズのニュアンスもある。しかも聴いて得られる雰囲気はミニマル・ミュージックに近い。これだけでもAssemblyの多様性が分かる。彼らの音楽はジャンルという枠組みから自由で、軽やかに境界線を越えて捕らわれることのない、ひたすら美しい印象である。
とりわけSteampacketが美しく、ネットラジオでこれを聴いて私は呆然と音楽に引き込まれてしまった。小さなフレーズが繰り返されていく。基底には常に同じ流れを感じさせながら、積み重ねられ交錯する音色と旋律が、優しく穏やかなうねりとなって美しい。かすれ声のヴァイオリンは、同じことをずっと同じように弾くばかりで、しかしどれひとつとして同じには響かない。高まる情感が音に艶を与えて――、切ない。遠くから聞こえる声みたいだ。自分の声が届かないことを嘆き、しかしそれでも声を上げ続ける、誰もが胸の奥に抱く思いみたいだ。
こういう音楽を聴くと、手が止まり、そして思考も止まってしまう。ただただ美しさに没入していって、音のひとつひとつに分け入って、戻ってくるのがいやになる。終わらなければいいのにと思う。涙が出る。例えそこが雑踏の真っ直中だったとしても、きっと私は独りになって、遠くから聞こえる声を、自分の声として、自分宛の声として、聴き入ってしまうのだろう。
このアルバムはいわゆるインディーズで、日本では売られていないようだ。だから私は発売元から直接買った。情報、物流、貨幣、音楽、コミュニケーションが簡単に国境を越える時代に――、私たちはまだ完全に自由ではない。しかし多国籍多様式的な彼らの音楽は日本人である私に届いた。心はとうに世界を渡る準備を済ませている。
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