一年生鑑賞教材
武満徹(1930 - 1996)
武満徹は、日本を代表する作曲家であり、かつ20世紀を代表する作曲家である。しかし、その知名度は、彼の母国である日本において、著しく低く、一部のクラシック音楽愛好家の、さらに一部において知られているにすぎないという現実がある。しかし、武満の作曲は、決してそのような一部だけでしか通用しないものではなく、より普遍的に鑑賞、聴取されるべき音楽なのである。
武満の音楽は、一般的に「現代音楽」といわれるジャンルで有名である。しかし、彼の音楽はその一部のジャンルだけではなく、親しみやすい「合唱曲」、「映画音楽」、「ギター曲」など、多岐にわたっている。むしろ、彼の愛していた音楽は、後者のような、一般に親しまれる音楽ではなかったであろうか。
今回の鑑賞では、武満のその二つの側面を概観することとする。
この曲は、尺八と琵琶という、日本の伝統楽器のために書かれている。日本の伝統音楽では、尺八と琵琶という組み合わせで演奏されることは無いのであるが、武満はこの二種の楽器を組み合わせ、伝統的かつ現代的な、新しい伝統邦楽のジャンルを切り開いている。
武満はこの曲に対して「奏者の吹く行為、弾ずる行為から、私はいつでも音楽に対しての新しい目覚めを体験する。それは、あるいは、書くという表現行為を超越したものであるかもしれない。」と語っており、そのことはこの曲の一回性を強く表す言葉であるといえる。
このこの合唱曲集は、武満が過去に作曲した歌曲の合唱編曲、オリジナルの合唱曲、武満により編曲されたものによって構成されている。
「さくら」は武満によって編曲された日本古謡、「○と△のうた」は1961年の映画、「不良少年」のなかで歌われたものを合唱に編曲したもの、「死んだ男の残したものは」は1960年に合唱曲として書き起こされたものである。「翼」は1982年の演劇「ウィング」で歌われたものであり、その合唱編曲を、ポップスに編曲したものを収録した。「○と△のうた」においても、ポップス編曲を収録した。