また、嘘ばっかり

 私はこんなことをいっていた。

私の楽器AriaAD-35はノンスキャロップドの模様。

 けれど、これは図らずも嘘なのだ。いや、もう勘違いというやつ。なので、ちょっとギターのブレース(力木)についてまとめてみた。

ブレースの変化

ブレースってなんだ

 ギターの中をのぞくと、裏板と表板を補強するために木の補強材が何本も入っていることが分かると思う。これを日本語では力木といって、英語ではブレース(ブレイス)という。主な役割は材の補強なのだが、これを工夫することで出音が変わってくるので、ギターメーカー、ルシアーともに、ブレースの形状には非常な注意を払っている。

ブレースのタイプ

 古いタイプのクラシックギターではこれが横方向に入っているだけだったりするのだが、後に放射状に入れるスタイル(ファンブレーシング)が現れたりして、興味のある人は調べてみると面白いかも知れない。けれど私はパス。多分調べはじめると止まらないから。

 さて、スチール製の弦を張るギターのブレーシングはというと、最もポピュラーなのがばってんになるように力木を入れるXブレーシングといわれるタイプで、これを創始したのはあの偉大なるマーチン社である。

スキャロップドって?

 スキャロップドというのは、このXブレースの下半分、それとトーン・バー・ブレースに施されている加工のことで、力木を若干削ることで表板を振動しやすくし、結果として反応のよさ、響きの繊細さを得ようというものだ。

 だが反面スキャロップドには弱点もあって、力木を削るというところからも推測されようが、つまり強度が弱まるのである。表板はネックとともに弦のテンションにさらされやすい部分である。ネックなら反るところが、表板なら膨らむという変化が生じる。

 マーチンのギターは、1944年までスキャロップド・ブレースを採用していたが、この当時はヘビーゲージを張るギタリストが多かったらしく、つまりギターはそれだけのテンションに堪えなければならない。ギターの強度を高める必要があったわけだ。

 マーチンはギターの強度を稼ぐため、Xブレースの形状を変え、ブレースをノンスキャロップドなものに変えた。

ブレースの違いによる変化

 ブレースの違いによる変化は、もちろん音の問題もあるのだが、それとは別にコレクション的な価値もあるようで、オリジナルのスキャロップド・ブレースはそれは高額で取引され、またプリウォー(戦前)ものを最善と考える人のために、スキャロップド・ブレースを使うラインナップも復活してきている。

 以上はマーチンのギターに関するものだが、もちろん他社のギターにとってもブレーシングは大きな問題なので、スキャロップドにしたりしなかったり、構造を変えたり、素材を変えたり、いろいろな工夫がされていてもうなにがなんだか分からない。

 しかし、ここで重要なのは力木という見えない要素が大きく出音を左右するということである。なかでもブレースがスキャロップドであるかいなかは、素人目にも分かりやすい部分なのではないだろうか。

AD-35のブレーシング

 さて、AriaのAD-35のブレーシングはどうなのかというと、これがしっかりとスキャロップドされていてびっくりした。知らずに一年間、弦を張りっぱなしにしてたよ。若干トップが膨らんでいるように感じられたのは、実際状態の変化があってのことだったのかも知れない。

 だが強度面に関していうなら、現在の主流はライトゲージ(まれにミディアムゲージ)なので、ヘビーゲージを張った昔に比べずっと負担は少ないはずだ。だから、弦を緩める緩めないという論争もでるのだろう(ヘビーだったら、誰もが緩めるはずだ)。

 ここらで、ちょっとライトゲージとヘビーゲージを比較してみよう。例のごとく、J. D'Addarioのデータを参照している。

EJ16:EJ18比較
音名 EJ16直径 EJ16張力 EJ18直径 EJ18張力
  張力合計 74.02 kg 張力合計 98.45 kg
E .012 inch 10.57 kg .014 inch 14.42 kg
B .016 inch 10.57 kg .018 inch 13.38 kg
G .024 inch 13.70 kg .027 inch 17.41 kg
D .032 inch 13.83 kg .039 inch 20.50 kg
A .042 inch 13.56 kg .049 inch 18.14 kg
E .053 inch 11.79 kg .059 inch 14.60 kg

 張力合計を見てみると、その差は優に20kgを越えている。すごいね。ほぼ100kgの負荷がかかるわけだ。こんなだからこそ、マーチンはスキャロップドを廃さざるを得なかったのだろう。

 けど今やライトゲージ全盛の時代。スキャロップドでも、楽器は耐えてくれそうに思う。だからこそ、スキャロップドが人気だったりもするのだろうか。

他のスキャロップド

 実はギターには、ブレース以外にもスキャロップドがあったりする。それは指板だ。慣れないうちはちょっとややこしいね。

参考文献


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公開日:2004.03.15
最終更新日:2004.03.15
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