私は今はやりのフィンガーピッカーギタリストなのだが、別にソロギターを志向しているわけでもなく、だからこれまで積極的にライブを聴きにいったりということはしてこなかった。基本的に引きこもり系の性質であるということもあるのだが、しかしそれにしても、他のギタリストの演奏を聴いたことがないというのは問題だ。聴いたことがまったくないわけではない。しかし聴いたことがあるものといえば、プロならばクラシックギターやフラメンコにかぎられ、今私が弾いているようなアコースティックギターにいたっては、道に座り込んでじゃかじゃかやっている、アマチュアのギター少年くらいしか知らなかった。
だから、たまにいく楽器店で試奏する人を見れば、食い入るようにして聴いていた。だってそれくらいしか、他人の演奏を聴く機会がなかったからだ。
そんな私が、先日2日連続でギターのライブに行ったのだ。演奏は北海道は小樽のギタリスト浜田隆史氏。MAEDAコーヒーの店内での体験は衝撃的だった。アンプを通さない演奏、実はこれこそが私の期待したものであり、そして私が大きく認識違いをしていることを思い知らせた演奏だった。
認識違いとはないかというと、ギターの音量である。私はギターというのは大きな音の出ない楽器だと思っていた。おのずと音量に限界のある楽器だと思っていた。なので音の大きさよりも美しさをと考え、そういうピッキングを心がけてきた。美しく繊細な音を求めて、しかしその反面、自分の音の小ささに悩んでいた。しかしギターは大きな音の出ない楽器なのだからと、そう思い込もうとしていた。
ギターが大きな音の出ない楽器なんて嘘っぱちだ! 浜田氏のライブはメイプル・リーフ・ラグでスタートした、その音の大きさ。ばりんと明るく、飛びかかってくるような勢いのある音に私は狂喜した。うわあ、ギターってこんなに大きな音がするんだ。目前にするピッキングのダイナミズム。うきうきと踊りだしそうな音の快活さ。私は目が開いた気がした。間違っていたと気付いた。ギターはこんなにも人を嬉しくさせる、素敵な音を持っているのだと知ったのだ。
その翌日の練習から、私のピッキングは変わった。意識的にピッキングを強くしたのだ。力で乱暴に弾くのではなく、やはり以前同様美しい音を求めてはいるが、しかしそれ以上に音の明るさ、陽気さを重視しようと思った。ぽんっと立ち上がるような、音のみずみずしさを考えるようになった。
そうしたら、実際に音色は変わった。楽器の鳴りも変わったのだ。
今までは、どこか音が歪んだり、各指で弾く音のバランスを気にしすぎたりで、おっかなびっくりだったのかも知れない。そのせいで、小さく収まりすぎていたのかも知れない。ともあれ、楽器にとっては悪い奏者であったろうと思う。もっと、楽器の真価を弾きだしてやらなければならなかったのに、私の弾き方ではまったく届いていなかったのだから。
ピッキングが強くなって、音は明らかにきらびやかさを増した。私はメロウな音が好きなので、このピッキング力を落とさず、メロウな音が出るよう努力してみよう。小さくてメロウなだけではつまらない。大きく、遠くまで染みとおるような、そんな音を出したい。きっと出せるよう、努力する。