IBMからリリースされている、ホームページ・リーダー。これは、視覚に障碍を持つ人たちを主な対象として、IBMが開発している音声ブラウザです。音声ブラウザやスクリーンリーダー(読み上げソフト)は他にもたくさんありますが、その中でも最も有名なのがホームページ・リーダーでしょう。それだけに、ユーザーもたくさんいるようです。
ちょっと思うところがあって、試用してみることにしました。
「画像にはaltを書きましょう」
こういうことを聞いたことがある方も、多いのではないでしょうか。altとは、画像が表示されない環境で、画像の代わりに表示されるテキストのこと。でも、GUI全盛の今、画像が利用できないUAなぞあるのでしょうか?
それが、あるんですね。有名どころでは、Lynxというテキストブラウザ。軽いので、テキスト中心のサイトをめぐるのなら、とても快適です。ですが、あえてLynxを使っているのは、そういうのが好きなユーザーがほとんどでしょう。なので、特に配慮する必要はないと思います。
では、どういうユーザーを配慮するべきか? それは、好き嫌いに関わらず、テキストのみの環境を余儀なくされているユーザーでしょう。そしてそのようなユーザーに、視覚障碍者は含まれているのです。
彼ら、視覚障碍者が使っているブラウザには大きく二種類あり、ひとつが情報を点字で表示する点字ディスプレイ、そしてもうひとつが情報を音声にして読み上げてくれる、音声(読み上げ)ブラウザやスクリーンリーダーです。
音声ブラウザやスクリーンリーダーは、ブラウザのウィンドウ内容を読み上げてくれる、つまり画像部分はalt属性値が読み上げられることになります。だから、画像にはaltを設定しましょう、ということになるのです。
じゃあaltを設定すれば、それですぐに音声ブラウザ対応? ところがそうではないのです。詳しくは、それぞれの解説サイトに譲るとして、実際に自分のサイトが使いやすいかどうかは、自分で使ってみないと分からない。ということで、音声ブラウザを、ちょっと使ってみることにしたのでした。
ホームページ・リーダーには、体験版が用意されています。試用のために製品版(15,000円)を買うのはちょっとためらわれるので、ここは体験版をダウンロードしましょう。ちなみに、体験版は33MBほどあります。以前なら躊躇するだろうサイズですが、現在はADSL環境(ちょっと遅いけどさ)。怖くなんてないです。
怖いものは他にありました。それは、HPRが要求する環境、でした。ちょっと見てみますと、
- CPU: Pentiumプロセッサー 300 MHz 以上
- メモリー: 64 MB以上のメモリー
この時点で、非常にやばい。というのも、うちにあるWindows機というのは、往年の名機と名高い日立FLORA Prius note 210h、チャンドラ。CPUはMMX pentium 233MHz、メモリは48MBです。余裕で、必要条件に達していませんね。
IBMのいうことには、上記のものは最低条件なのだそうで、微妙に不安がよぎります。だけど、まさか職場のPCに勝手にインストールすることも出来ません。仕方がないので、無理を押してチャンドラでチャレンジしてみることにしました。
条件を満たさない環境での動作に関しては、実績があります。長く68k Macintoshで頑張ってきたのは、伊達ではありませんですよ。
HPR体験版は、分割ファイルで提供されています。そのうちの、exeファイルを開けばインストーラが展開されますので、後はそのインストーラのいうままにインストールするだけ。非常に簡単です。
ところが、そのインストーラがちょっと感動ものでした。なんと、インストールガイドが音声付きなのです。当たり前といえば当たり前ではあるのですが、僕は正直感動しました。あまりに感動したので、目をつむってインストールしようと決めたのでした。
このあたりは、さすがによく考えられています。PC自体の操作に習熟していない人でも、おそらくは迷うことなくインストールできるでしょう。迷うとしても、普通の初心者並にしか迷わないはずです。それくらい、よく出来ています。実際、僕は少しの迷いもなく、インストールできました。
はじめは音声ファイルが再生されるだけのインストーラですが、途中からテキスト読み上げに切り替わります。これがあまりに感動的だったものだから、ライセンス使用許諾を全部聞いてしまいました。はじめて、の体験です……
インストール後は再起動。起動すれば、もうHPRの準備はオッケーです。
HPRの起動は、キーボードショートカットで可能。Alt + Control + F4でホームページ・リーダーが、Alt + Control + F5でホームページ・メーラー(ちょっと、変な名前)が立ち上がります。
立ち上がった後は、どしどしヘルプを読んで、いやさ聞いていきます。でもさ、やたらたくさんのキーボード・ショートカットがどんどん読まれていって、さすがに覚えられなかった…… いや、ほんとに無理です…… 都合五回は聞いたけど、全然覚えられていません……
HPRは、キーボードだけで操作できる(当たり前だ)ので、キーボード主義者の僕としては非常に嬉しい。もう、うはうはです。しかも読み上げなので、目を使う必要がない(これも当たり前だ)というのもポイント高いです。だって普段、酷使しているせいで、僕の目はドライアイ寸前。コンピュータを使って、自宅でも仕事でも細かい作業で目を酷使し、更に趣味が読書、これで目が疲れない訳がないので
あります。なので、ちょっとでも目を休められるのは、かなりいい感じです。
手放せなくなったらどうしよう?
さて、問題も見えてきました。今回は感想に留めるだけにしようと思ったのですが、問題をみて見過ごすことなどできません。なので、気づいたことを簡単に書いておきたいと思います。
a要素の内容としてimg要素があった場合、仮にalt属性がなかったとしても、画像のファイル名がアンカーとして機能します。ですが、もしa要素の内容が「→」だけだったら? ■とか○、▲といった記号だけだったら?
アンカーの内容が記号だけだった場合、なにも読み上げられないのです。これは困ります。タブで移動しても、アンカーのトリガーが読み上げられない。最初はなにが起こってるのかと思って、思わず画面を見てしまいました。それでも、状況を理解するのにかなりかかりましたよ。
アンカーの内容が「これ」だったり「こちら」だったりするのも困りますが、最悪これらは、その前後の文脈からリンク先を知ることが出来ます(ものすごい手間ですが)。ですが記号となれば、もうお手上げです。自分が今どこにいるかも分からないわけですから……
せっかくの体験版なので、使える間にいろいろを試してみたいと思っています。音声スタイルシートの実験なんかもやってみたい。うまくいくのだったら、自分のサイトに音声スタイルシートを装備させたいです。
それと、たくさんのサイトをめぐって、良いサイト、悪いサイトの傾向も調べてみよう。きっと、自分にとってプラスになると思います。
現在、ラジオ感覚でテキストサイト巡りをしています。手元にはUSBキーボード(PS2用)だけをおいて、チャンドラは遠くに置いてしまって。本当に画面を見ることなく操作できるので、iBookで作業しながらチャンドラで読み上げという、意味不明なマルチコンピューティングも可能です。
こんな生活を続けていれば、いずれHPRの操作体系にも慣れるでしょう。HPRからの掲示板発言も成功。なんでもできて、すごいいい感じ。いやあ、製品版買おうかなあ。
こうやって慣れていけば、いつ失明しても大丈夫かも知れない…… 少なくともネットだけに関しては……