PCに向かい三十分ほどの魂の放浪をたのしんでいる無気力なネットワーカーたちは、この「電脳無宿」たちをどう見るか? 所詮はこんな思いじゃどこにも居場所なんて無いと鬼束ちひろの唄のように、小さな機械の中のロジックの世界に自分たちのアリバイを賭けてみている引き籠り労働者にすぎないと思うだろうか?
電脳無宿。
つまりコンピュータ一本で、あちこちを渡り歩いている人たち。
その何人かを私は知っている。
たとえば、それはLinuxの中核(カーネル)を書き、結果的に世界的ムーブメントの一歩を作りだしたリーナス・トーバルズ(Linus B. Torvalds)であり、またGNUの創設者であるリチャード・ストールマン(Richard M. Stallman)、バークレー版UNIX(BSD)の開発者、ビル・ジョイ(Bill Joy)などが有名どころ。あるいは、若き日のビル・ゲイツ(Bill Gates)もそうだったんだろうか。
そう、彼らは電脳無宿の頂点に立つ最高のハッカー達であり、また彼らのような凄腕のハッカー達が、世界中にひしめいている。神と称えられるもの、導師、魔術師と呼ばれるもの。そして、これからハッカーになろうとしている者たち。
できれば、自分もかくありたいと憧れるのだった。憧れるだけ…… 憧れるだけというのも空しいので、ちょっと踏み出そうと思ったんだ。そのきっかけとは――
HTML関連の資料を収集しているとき、面白そうな文書を見つけたのでした。その名も「How To Become A Hacker」。日本語に訳すと、「ハッカーになる方法」といったところでしょうか。日本語版もあって、これが実に面白い。コンピュータを駆使して、難関に挑むハッカーたち。多くのソフトウェア資産を産みだし、インターネットを築き上げた最高にクールなやつら。かっこいーっ。
僕は、ずっと以前から彼らハッカーたちの活躍を知っていましたが、遠くより憧れてみているだけでした。人の役に立つソフトウェアを作っては、それら成果を独り占めしてしまうのではなく、多くの同胞たちと分け合って共有しようという姿勢は、本当に理想的と思います。でも、僕はそれら成果の恩恵を受けるばかりで、返すことはできなかった。出来ないと思っていた。けれど、もし考え方を変えればどうなんだろう? 出来ないと決めつけて歩き出さないのではなくて、無理かも知れないけれどそれでも歩き出してみる。その、始めてみるという姿勢がなにより重要なんじゃないだろうか?
そう思うようになったのは、まさしくこの文書がきっかけだった。僕はこの文書を読んで、また、新たに歩き出そうとしている人を見て、同じく歩き出してみたいと思ったのでした。
第三章「ハッカー的心構え」を読んでみて、もしかしたら自分はハッカーになれるかも知れないと思ったりして。というのも、ここに書かれている心構え、性格というのが、とても自分に合致していると思ったからです。なんて、ずうずうしい! でも、これから今まで考えもしなかったことを始めてみようというのですから、ちょっとくらい誤った思い込みに後押ししてもらうのも必要でしょう、と自分を誤魔化しておこう。
心構えだけは立派でも、技術がなければ意味がないのは当たり前です。そして、このことは当然、「ハッカーになろう」でも触れられています。でも、最初からいきなり技術があるなんてありえない。とにかくなにかを始めてみて、徐々に技術を身に付けていくしかない。となれば、なにから始めればいいんだろう? 大丈夫、それについてもちゃんと触れてあります。
第四章「基本的なハッキング技術」によれば、プログラミング技術を身に付けること、オープンソースUNIXを入手しそれに熟練すること、WWWを知りHTMLを書くことが必要とされています。このうち、最後にあげられたHTMLに関してはもうすでに書き始めているので、ここで僕に必要なことはプログラミング技術の習得とUNIXへの接近ということになります。では、どちらから始めればいいのでしょうか? まあ、考えるまでもなく、UNIXを導入すべきでしょうね。
プログラミング技術を習得するには、そのための環境が必要になります。ですが、今、自分の身近にあるプログラミング環境といえば、HyperTalk、AppleScript、VBA、ActionScriptだけ。なにかが違ってる気がします……
ここで、UNIXに目を向けてみましょう。以前は、専門的な知識が要求されたUNIXですが、最近は、初心者でも簡単にインストールできるパッケージが多数用意されています。それこそ、インストールプログラムにいわれるままに操作すれば、基本的なセットアップまで完了するというお手軽さ。しかもパッケージの多くは、プログラム開発環境を用意してくれているのです!
だったら、まずUNIXを導入して、そこに用意されているプログラミング環境でプログラムの勉強をすれば、UNIXの操作にも慣れるしプログラムも身に付きます。まさに、一石二鳥ですね。
とのことで、オープンソースUNIXを導入することに決まったのです。
一言にオープンソースUNIXといっても、その種類はさまざまだったりします。大きく*BSDとLinuxの、二種類に分けることができます。そして、これらはさらに数多くのディストリビューションに分かれています。つまり、この多くの選択肢の中から、ひとつ選ばなければならないのです。
まず、*BSDかLinuxかを選びます。最初は*BSDにしようと思ったのですが、「How To Become A Hacker」の著者、Eric S. Raymond氏の好きだというLinuxを導入してみることにしました。でも、こんなミーハーな理由だけではないんですよ。
僕はMacintoshユーザーであり、いずれMacOS Xに移行していくつもりでいます。そのOS Xは、内部にFreeBSDを抱えていたりするのです。なので、いずれ(完全にではないけれど)FreeBSDの亜種を手に入れるだろうことがわかっている。となれば、ここはあえてLinuxに触れておきたい。
それがLinux選択のひとつの理由でした。
Linuxに決まったのはよかったのですが、そうなれば今度は沢山あるディストリビューションからひとつ選択しなければなりません。でも、どのディストリビューションがいいかどうかなんて、僕にはまったく分からない。仕方がないので、情報収集から始めることにしました。
情報収集をするといっても、どこにいけば情報があるのかから分かりません。困ったときはGoogle、といいたいところですが、まとまった情報を体系的に知りたい場合は、Yahoo! の方がずっと有用です。なので、Yahoo! のLinuxカテゴリーにいって、初心者向けやらFAQやらを、ローラー作戦のごとく練り歩きました。そして、Vine Linuxというのが、パッケージ導入後すぐに日本語が使えて便利らしいということを知り、これにしようと決めました。
ここで面倒を嫌うというのも本来の趣旨に反しているような気もしますが、まずはとにかくはじめてみることです。はじめる段階から難儀なことが多ければ、その時点で嫌になってしまうかも知れない。それはちょっと避けたかったのですよ。
Midori Linuxにチャレンジしている友人がいるので、緑に対抗して葡萄にしようとしたのも理由のひとつだったかどうかは、今となっては定かではありません。
Vine Linuxは、多くのオープンソースUNIXと同様、ネットからダウンロードすることが出来ます。500MBを軽く超えるのが難点ですが、ADSL環境を手に入れた今、500MBのダウンロードは、決して非現実的ではありません。ということで、Vine Linuxの公式サイト「Vine Linux Home Page」から、ディスクイメージをダウンロードしました。
さて、うちには一台、ほとんど使われていないWindowsマシンがあります。富士通のFM V-DESKPOWER SE。もらい物ですが、使わないのはもったいない。なので、UNIXを導入するならこれにと決めていました。
Vine Linuxの要求するスペックは次にあげるとおりです。
●PC/AT互換機(いわゆるDOS/Vマシン)推奨使用環境
Vine Linux PPC/Alpha/Sparc版の推奨環境は 各マニュアルを御覧ください。
- CPU:Pentium 100MHz以上
- メモリ:32Mバイト以上 (推奨 64Mバイト以上)
- HDD: 600Mバイト以上(フルインストール時約1.2Gバイト)
- CD-ROM:ATAPI/SCSI
- キーボード: PS/2 (101,106およびこれらに互換性があるもの)
- マウス:PS/2,シリアル, USBマウス
- ビデオカード:S3 ViRGEシリーズ,Riva TNT2,Millennium G400, GeForce DDR, i810, i815 など (詳細は XFree86 WWWページを参照)
- SCSIカード:Adaptec 29x0/39x0, Symbios53c8xxなど
What's Vine Linux
DESKPOWERのスペックもみてみましょう。
CPU、HDDともに、問題はなさそうです。メモリがほんのわずか少ないような気もしますが、取り立てて問題にするほどのことではないでしょう。どうせSwap(仮想メモリ)を利用するんだろうし、圧倒的にメモリ不足の環境というのは、なれています。もしインストールしてみて、どうにもこうにも動かないというのだったら、その時に足してやればいいんですよ。
というわけで、インストールの開始です。
インストールするマシンには、ネットワークボードがありません。なので、必然的にCD-ROMからインストールすることになりました。FTPサイトからダウンロードしたディスクイメージを復元します。この作業は簡単。ダウンロードとCD-Rの書き込みに時間がとられただけで、労力はさほどのものではありません。
DESKPOWERがCD-ROMブート可能なら、このままインストールになだれ込むところです。ですが、どうやらCD-ROMからはブートできないみたい。なので、インストールマニュアルを見ながら、ブート用フロッピーを作成。これも簡単。マニュアルにある手順そのままでオッケーです。
ディスクが用意できたので、とりあえずハードディスクを初期化します。と、その前にビデオカードやHDの型番、IRQ、IOの設定値なんかをメモしておきます。初期化はDOS プロンプトから、FORMAT C:と打ち込んでやるだけ。初期化が済んだら、マニュアルの指示通りにインストール開始です。
FDを挿入し、マシンを起動します。機種によっては、グラフィカルインストーラが使えないそうですが、幸いなことに、僕の環境はグラフィカルインストーラが使えました。マウスは使えませんが、これは別にたいしたことではありません。とにかく、インストーラの指示通りに答えていくだけで、さくさく進んでいく。すごく、楽。パッケージ製作者に、感謝です。
ただ、厄介だったのがディスクのセットアップです。パーティションを切るのですが、容量を小さくすれば出来ることが減っていってしまいます。最低でもサーバとプログラミング環境、出来ればTeXなんかもインストールしたいので、ルートを大きめにとることにしました。
最初は、ルートを800MBくらいにとっていたのですが、残念ながらこれでも足りません。じゃあ900MB。これでも足りないのでした。試行錯誤しながら、他のパーティションを削ってみたりして調整を続けます。インストーラが要求するので用意していた「/usr」も「/var」も無くしてしまい、最後には「/boot」と「/home」だけが残りました。
パーティションの内訳は、以下のとおりです。
とにかくこれで、欲しいものは全部インストールできそうです。
インストールしたコンポーネントは以下のとおり
断念したのは、Note PC ToolsとGNOME、Dialup Workstationだけ。ということは、ほとんど全部入れたということになりますね。
Linuxに触れることでサーバ管理にも慣れたいと思っていたので、サーバ群のインストールは外したくなかったのです。また、TeXやデータベースも触れてみたいと思った。そして肝心かなめの開発環境、ですね。とにかく、僕は欲張りだったのでした。
日本語環境にはNamazuが含まれていました! これは嬉しいです。いずれ触ってみたいと思ってたんだ。
いや、本当に欲張りですね。
Vine Linuxを起動させてみました。最初にLILO(OSローダ)が起動、ここで起動したいOSを選ぶのですが、まあWindowsは消してしまいましたから。Linux以外に選択肢はありません。Linuxが立ち上がり、インストール時に作成しておいた一般ユーザでログインすると、ちゃんと、ちゃんと動いてくれました。これはうれしい、んだけど、なにをどうしたらいいのかがまったく分からない。Emacsを立ち上げてみたり、w3mでマニュアルを読んでみたりして、とりあえずは終了。
勉強うんぬん以前に、普通に使えるようにならないと駄目だ、ということですね。道のりは遠そうです。
Vine Linuxの起動には成功しました。でも、やっぱりメモリが少なすぎるようです。右クリックでコンテクストメニューを呼びだすだけで、ハードディスクがガリガリいっています。あっという間にディスクが壊れるんじゃないだろうか?
ということで、メモリを増やしたい。32MB*2で、64MBも増やせば、合計で80MBになります。でも、今時72ピンのSIMMなんて売ってません。ということは、オークション? 嫌な予感がする……
ネットワークカードも必要でしょう。幸い、PCIスロットがあまってますので、安価に100BASE-TXカードを導入できそうです。
そして、出来ればHDの大容量化もはかりたい。やっぱり1.2Gだけというのは、少なすぎます。せめて2GB。出来れば数十MBくらいは欲しいかも。でも、この古マシンはそんな大容量ディスクを認識してくれるのだろうか?
不安は残りますが、とにかくLinuxは動き始めました。僕も、動き出さねばなりませんね。頑張りますよ…… 道のりは遥か彼方にかすんで見えないくらい遠そうですけど……