誰か、ラーメンアイスを知らないか

 誰に聞いても知らない。たしかに自分は覚えているのに、だれ一人それを知るものがいないのだ。誰かが知っていてもいいはずではないか。まるで人類の記憶から欠落したかのようにそれは沈黙を守っている。誰か、ラーメンアイスを知らないか。

 それは、自分が小学校の低学年のころ。時代は八十年代初頭、元号はまだ昭和だった。学校の通学路、通っていた幼稚園の隣にあった個人商店の店先に、ラーメンアイスは売られていた。ラーメンアイスといっても、ラーメン味というわけでもなければ、ラーメンが入っているわけでもない。ラーメンを模しただけのただのアイスクリーム。だが、子どもというものがこういうこけおどしの類いに弱いのは世の常であり、そして自分もまた子どもだった。僕は、ラーメンアイスに骨抜きにされていた。

 丼入りインスタント麺を小ぶりにしたようなカップは、それがラーメンであるということを無理矢理に主張するものだった。蓋を開けると、ラーメン状のモールドがつけられた――あるいは麺状でさえあったかも知れない、アイスクリームが入っており、それにはスープに見做したソースがかけられていた。アイスクリームの上には、ラーメンにはかかせない具がのせられている。メンマをかたどったゼリーがあり、そしてなるととグリーンピースがあったのだが、驚くべきことに、この後者ふたつは本物だったはずだ。麺やメンマはかたちはどうあれ中身は普通だ。しかし、なるととグリーンピースは、はっきりいってただの冷凍食品であり、恐ろしい違和感で迫ってくる。だが、その違和感こそが曲者であった。僕をしてラーメンアイスに夢中ならしめたのは、この違和感のせいだったといってよい。その夏。僕の三時は、決まってラーメンアイスだった。

 だがそれほどのものであるのに誰も知らない。同世代であろうと年配であろうと関わらずだ。だからあえてここで聞きたい。誰か、ラーメンアイスを知らないか。


君よ知るやラーメンアイス

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公開日:2001.09.20
最終更新日:2002.01.25
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