僕は職を探している、というのも、もしかするとリストラの対象になったかも知れないという経験のあるためだ。幸いにも、ボスの温情深く良識ある采配のおかげで、三人が三人とも職業上の危機を免れ、今も同じ職場で働いている。けれど僕は安心の顔の下に、再び起こるかも知れない危機への怖れを隠している。二度あることは三度ある。一度あったことが二度ないと、一体誰が保証できるだろうか。
不況下の日本で、望む仕事を得るのは、大変に難しい。新聞やWebサイトなんかで職を探しては、ほんのわずかの口を見つける。履歴書を送れば、まことに残念ながらと、簡潔な返事が返る。ああ神様、来たりて我を導きたまえと、人はしばし祈るのだ、二枚目の履歴書なんぞを書きながら。
さて、とあるサイトで見つけた仕事は、まさに僕の探していたものだった。病院の求める司書の仕事。病院の図書館で、けれど、その仕事を得るのはたった一人だ。電話をかけたので、ライバルが沢山いるのは承知の上。僕は図書館での経験という切り札を隠している。
この仕事は、まるで僕にあつらえたかのよう。僕は本の愛好家で、病院を深く愛するものだ。病院が好きだって? もしかしたら奇妙に思うかも知れないけど、僕は病院が好きなんだ。子どものころ、厄介だけれど命にまったく関わらない病気でもって、病院を転々したという経験が、僕を病院好きにしてしまった。僕を本当に満足させる職はあまりに少ないので、なんとしてもこれをものにしたいと思っている。
とはいえ、問題もある。勤務地が東京近郊なんだ。京都からはあまりに遠く、もし就職が決まれば、今の生活を捨てなければならない。捨てること自体はかまわないし、たいした問題じゃない。問題は、四月に始まったばかりの、フランス語学校をまっとうできないということだ。僕はまだ学び足りないし、友達も出来たというのに。これは本当に悲しいことだ。
職業を得ることは人生における重大ごとだ。それ故、司書になることは僕にとってもっともよいことだろう。選ばれることは幸運、しかし選ばれないこともまた幸運。不運においても同様だ。僕の人生は、いつも喜びと悲しみを一緒くたに持っている。
(初出:Allons au Japon!,オリジナル:フランス語)