領主のお屋敷

 領主のお屋敷にあいつらが住み着いて以来、村はすっかり様変わりした。夜はおろか、昼間も安心して出歩けない。出会えばそれまで、命はないものと思ったほうがいい。領主にかけ合おうにも、南蛮鎧がお屋敷を守っているから、近づくこともできやしない。何もしなかったわけじゃない。代表を立てて話し合いに出向いたこともあったが、帰ってきたものはなかった。村では、皆おびえながら暮らしている。

 昨日、ひとりお屋敷につれていかれたのを、たまたま見たものがあった。夜寄り合って話し合いを持った結果、見殺しにはできない、助けにいくと決まった。たくさんで押しかけても無駄だ。だからくじで三人選んだ。選ばれた三人のなかで、一番若いのが俺だった。

 夜になればお屋敷はやつらであふれ返るから、昼のうちに忍び込むしかなかった。まだ日も高いというのにお屋敷は静まり返って、人っ子一人見えない。拍子抜けするほど。がらんとしていた。

 土蔵や離れを順繰りに探して、しかしなにも見つからない。あるいは昨夜のうちに殺されてしまったのかも知れない。この屋敷にやってきたやつらは、人でないというもっぱらの噂だ。さらわれたまま帰ってこないものは、皆やつらに食われたのだと言われていた。あの、夜昼となく歩き回っている鎧にしても、中はがらんどうという話だ。領主は南蛮の妖術遣いを招き入れて、なにかをやっている。だがそのやっていることがわからなかった。

 床下を検めるもなにも出ない。地下牢があるという噂は嘘なのだろうか。このとき俺は油断していて、無防備に庭に出てしまった。築山の影からぬっと姿を現したのは、黒光りする南蛮鎧で、空っぽの面が俺を見付けたとすぐにわかった。剣を抜きながら、恐ろしい速さでこちらへ向かってくる鎧に、俺の足はすくんだ。鎧に向かって投げつけられたつぶてがなければ、俺はそこで死んでいただろう。つぶてが鎧に当ってたてる間抜けな音に我を取り戻すと、俺は猛然と駆け出した。


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公開日:2005.02.09
最終更新日:2005.02.10
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