インターネットの語り部

 なおりんの話。これが実話だというのは書いたとおりで、だから私はこの逸話を紹介するにあたり、まずは掲示板のログを探そうとしたのだった。頼みはGoogle。私が件のやり取りを見つけたのもおそらくGoogleを経由してだっただろうと思う。だが、探すにあたり私には多少の不安というものがあって、その不安とは、Googleを使って検索をしても昔の記事が出てこない。いつごろからかはさだかでないが、以前は引っかかったはずの情報が出なくなっていることに気がついて、そう思いはじめると、確かに以前の結果と今の結果は違っている。そうだ。いったいいつだったろうか、こととねをキーワードに検索しても、かつてのサイトは引っかからなくなった。私はこの事実に気付きながら、それでもGoogleのキャッシュには永劫アクセスできるものと思い込んでいた。検索の結果に、キャッシュでしか参照できない過去のものも、未来永劫あり続けるものと思っていたのだ。

 けれどそうではないのだね。情報が過去に追いやられ、インターネット上にその位置を失ってしまえば、Googleの検索結果からも消えるのだ。そうなると頼みはInternet Archiveだろうか。しかし、膨大な情報すべてが保管されているわけでなく、ましてや検索できるわけでなく。だから私はあきらめて、なおりんの逸話に関しては、私の記憶にあったままを――多少の脚色をともに――紹介するほかなかったのだ。

 インターネット黎明のころ、話題になったサイトやネットを騒がせた事件はそれはそれはたくさんあったのだけれども、その実像を最も雄弁に伝えるはずの一時的資料にアクセスする手段が次第に失われていると実感する。今や伝聞にわずかばかりの痕跡を見つけるのが精いっぱいで、面白かった時代であっただけに私は寂しさをつのらせて――。まあいいさ、インターネット黎明を知る私たちが語り部になればよいのです。


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公開日:2006.04.25
最終更新日:2006.04.25
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