原題:Les enfants du marais
1999年/フランス/1時間55分
監督:Jean Becker
配給:シネマパリジャン
誰しも懐かしい思い出に溢れる時代があったのではないでしょうか。忙しい毎日のなかで忘れてしまっているその郷愁を一息に呼び覚まし、足りなくなっている心の水を補給してくれる。「クリクリのいた夏」とはそんな映画でした。
時代は第一次大戦と第二次大戦の間。主人公のガリスは戦地から帰る途中、立ち寄った沼地に住み着くこととなります。ガリスの隣人、リトンは最初の女房に逃げられたどうしようもない男で、ガリスはそんなリトンに辟易としながらも、それでも友情とリトンの家族への心配のために沼地を離れられないでいます。彼らは自らの足る分を知り、日々を素朴に暮らしていく。そういう懐かしくも、人間の人間としていられた時代というものに、我々の心を誘います。
街に暮らすアメデは、ガリスたちの沼地での暮らしに「自由」を見、憧れをつのらせています。また事業に成功した大金持ちのペペは、かつて暮らした沼地とガリスたちとの友情に安らぎを感じます。この彼らの憧れの延長線上に、私たちの感傷も位置するのではないでしょうか。
ところで、沼地での暮らしはそれほど素晴らしいものなのでしょうか。ガリスは、リトンに振り回されるたびに沼地から旅立とうと思いますし、リトンは娘の薬代も払えません。彼らの毎日が自由の中にあると思うのは、私たちの生活とそのリズムや在り方が違うから。彼らの生活の糧を得るための仕事さえも、レクリエーションのように感じてしまう。彼らの暮らしにただただ素晴らしさばかりを感じるのは、私たちがずっと遠くにいるからではないでしょうか……
この映画がひたすらに美しさをもって輝くのは、すべてがリトンの娘、クリクリの思い出の中に語られる日々だからかも知れません。そう考えれば、私たちの暮らしも、遥かな先から振り返れば、思い出の中に美しく輝くのかも知れません。多くを求めなければ、私たちの暮らしも捨てたものではない、のかも知れません。
評点:3
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