『ナース・ステーション』全二十巻
島津郷子
(ユーコミックス)集英社,1994-2001年。
仕事を持つ女性に起こることごとが描かれたといえばいいのだろうか。この漫画の中核を理解するには、舞台が病院ということから離れたほうがむしろよい。病院は事件事象の展開される場として用意されただけで、ことの本質は中山桂子に関わる人間模様に集約されるのだから。
描かれるテーマというのは、家制度との対立、嫁姑の問題、男社会における女性の位置、職場での対立、孤立、そして恋愛や結婚など。働く女性にまつわる事象が中心となって、そのときどきの社会問題がクローズアップされながら俎上に載せられていく。病院ならではの生老病死に関する事柄は、いわば狂言回しとして働くに過ぎず、そこが病院である必然性は存在しないとさえいえるだろう。しかしだからといって、この漫画がまったく病院と切り離されて存在しうると見るのも、また早計だ。
直接的にクライアントの生死に関わり、それゆえ濃密になりやすいクライアントとの関係や、構成員のほとんどが女性で占められ、グループワークがことさらに重要視されるなど、看護婦という職業が持つ特殊性は多く、この特殊性が引き合いに出されることにより、働く女性の問題があぶり出されている。だがその問題の多くは、看護婦に特有のものではない。それらがすべての職場で起こりうる事象であるかぎりにおいて、この漫画は職業を持った女性を描こうとするものの、ヴァリアントの一つといえるだろう。
見方を逆転してみよう。看護婦に起こる事象がある程度普遍的であるのなら、果たして看護婦という仕事は特殊なのだろうか。あらゆる仕事が、その仕事固有の特殊性と重要性を持っているのなら、看護婦の仕事もそれらのうちの一つに数えることが可能だろう。看護婦の仕事を聖職という言葉で粉飾しながら、やたらと有り難がり持ち上げるのではなく、冷静に専門職の一つとして捉えることが求められている。その意味でも、この漫画の対象はすべての働く女性である。
評点:3+
耳にするもの目にするもの、動かざるして動かしむるものへ トップページに戻る