よつばと!

なんか理想的でいい感じじゃないですか

『よつばと!』1巻から
あずまきよひこ
(電撃コミックス)メディアワークス,2003- 年。


 とうちゃんはだめだろうか? いや、そんなことはあるまい。しっかりしてないと人はいうが、あの若さで一家を構え、仕事に子育てに、人生のなんたるかをよく知って実践している。飄々とした人格にてよく世間の風に吹かれながら、荒れもせず、流されもせず。理想的なる独立の個人である。

 本作はあずまきよひこが出世作『あずまんが大王』の次の作にあたる。いわば氏を試す一冊であるが、今のところ私にとっては非常に好感触、むしろ前作以上に愛せそうな予感に満ちている。ドラマチックよりも穏やかが先立ち、何気ない日常にひそむ可笑しみを抽出して好意的である。友人隣人には少しずつ世間からずれたところもあるのだけれど、それがために身近にあればきっと暖かくなる愛すべきところ多き人たち。そんな人間関係が傍目に気持ちよく、仕合せがにじんでいる。ただしこれらは前作から受け継いだ長所でもある。

 以前からのファンの中には、本作を駄目と感じた人もあるかも知れない。前作の密室的な面白さ。淡々としながら濃密でもあった彼女ら独特の世界は、今回むしろ薄められてしまった。本作においても独特の限定された世界を持つという点で変わりはないはずなのに、その印象が大きく異なるのは、そこに外的な世界があるかどうかの差だろう。極めて独立的であった彼女らの世界に対して、よつばととうちゃんの世界は独立しつつも世間に取り巻かれている。ここにこそ最大の違いがある。好き嫌いを分けるならこの一点に尽きるのではないだろうか。

 本作におけるテーマは、個人の、ともすれば閉鎖的になりがちな世界と、開かれた社会世間とのかかわりにあるのかも知れない。すればよつばこそは、新時代日本の個人と社会の向き合い方をうかがわせる、新たな関係性への芽生えであるかも知れない。よつばを軸として社会はあり方を変えるか、あるいは新社会の芽吹きがここに投射しているのか。後者だったら非常に嬉しいな。


評点:4+


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公開日:2003.12.01
最終更新日:2003.12.01
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