アンプを選ぶ

 うちへやって来た楽器はその日のうちに帰っていってしまったのだが、それはそれでもう仕方がない。自宅に残されたのはカナレのシールド3mのみ、これではなにをしようにもまったく手が出ないのであって、けれど楽器がなくともできることは残されている。

 エレキギター用のアンプを買わないといけないんだな。

試奏をして買う

 無謀にも、当時まだギターを弾きはじめて半年経っていなかったというにもかかわらず、アンプは試奏して買おうと考えていた。いや、これ実際に無謀で、だって弾けないから、全然。だがなあ、アンプは音が直接出るものだからして、評判だとか一般的傾向だとか、そういうのじゃないと思った。聴いて気に入るものがよいと思ったので、とにかく試奏してみると決めていた。

 目当ての楽器店は梅田ナカイ楽器だ。この店には、いかにも買いそうな顔をして顔を出しては情報収集だけして帰るという、非常に申し訳ないことばかりしてたので、せめてアンプはここで買おうと思ったのだ。それに、自分の知っている店の中で、いろいろアンプの種類をそろえていたのは、ここだけだったし。

お目当てのアンプ

 試奏をして買うといっても、まったくやみくもに弾こうというのではなく、それなりに目当てはあった。

 第一に、それほど大きなものはいらない。だって家で弾くのだし、外で弾くのはずっと先になるだろうから、それはその時に考えればいい。10Wか15Wくらいで充分だと思っていた。

 第二に、比較的真当なものがよかった。私はなにしろ裏道歩きの性質があるので、下手をすると際物を買いかねない。最初、スモーキーアンプを買おうとしていたのは内緒だが、さすがにこれでは駄目だと思いなおして、その時点では一般的なものにしようということになっていた。

 第三に、リバーブとか追加機能みたいのはいらない。練習用なんだし、いろいろできると楽しいと思うが、とにかく最初は普通に弾くと普通に音の出る、普通のアンプでいいのだ。普通普通というとアブノーマルなアンプがあるみたいだけど、別にそういう訳ではないのよ。言葉の綾だ。

 などなど、これら条件から考えれば、いくらなんでもしぼられてくる。私がこれと思っていたのは以下のふたつ。

 マーシャルもVOXもアンプメーカーとして有名どころだから間違いないだろうし、オーソドックスという点においても問題ないだろう。

試奏する

 梅田ナカイ楽器グランドビル店に行ったら、エレキギター、特にアンプは古書のまち店が専門らしい。なのでその足で古書のまちに移動、アンプを買うつもりで来た、試奏させて欲しいといえば、店内備え付けのギターをとってチューニングを済ませ渡してくれた。いや、渡してくれなくても、兄さんが弾いてくれてもいいんよ。というか、その方がずっといい。でも渡してくれたんだから仕方がないわな。

 この時点で、つまり弾く前の段階で15Wという選択は消えた。というのも、とにかくでかかったのだ。写真で見てると小さく感じるアンプだが、実物を見るとでかい。かなりでかい。少なくともMG15CDで充分置き場所に困るサイズだった。

 なので選択肢はしぼられた。MG10CDPathfinder 10の一騎打ちだ。

印象

 ふたつのアンプの印象はっきり違って現れた。以下にその概要を示そう。

Marshall MG10CD

 マーシャルMG10CDは、色気のある音といえばいいのだろうか、独特の味のある音がして、ギターを弾きはじめて日の浅い私は知らないんだが、こういうのがマーシャルの音というのだろうか、好きな人は好きな音だろうと思えた。

 このアンプにはオーバードライブ・スイッチがついていて、それをONにするとクリーン・トーンが歪んだ音に変わる。その音も悪くない、というか随分よくて、いわゆるパワーコードなんかをやってみると、それだけでうまくなった気がするくらいだった。

 クリーンとオーバードライブのそれぞれにボリュームがついてるので、切り替えはスムーズだ。ゲインはオーバードライブにしか有効じゃないみたいだが、特にセッティングをいじって弾くつもりではなかったから、特に気にならなかった。バスやトレブル等は調整不可、トーンコントロールがひとつあるだけだが、これも同様気にならない。

 とにかく、音の色気と特にオーバードライブの感触がいいアンプで、ああこりゃマーシャルが売れるのも分かるよ、という感じだった。

VOX Pathfinder 10

 対してVOX Pathfinder 10は、音がまっすぐ出てくる、素直なアンプという印象。逆にいえば下駄を履かせてくれないといえばいいのか、下手は下手なように聞こえるのがとにかくつらかった。泣こうかと思った。泣くまでもなく冷汗が出た、脂汗がにじんだ。

 マーシャルの傾向、VOXの傾向も分からない私なので、もちろん真空管の音というのも、オーディオならともかくギターアンプともなるとまったく分からない。Pathfinderが出してる音というのが、いわゆるトランジスタの音なんだろうか。マーシャルに比べると、オーバードライブなどは随分ぺらぺらに聞こえた。掛け値無しに、弾いてる音がどういう風に増幅されてどういう風に出ているか、単純に分かるというか、本当に素直な音の出をしていると思った。

 このアンプはさっきのマーシャルとは違い、ボリュームはひとつしかない。だからクリーンを弾いてる途中でオーバードライブ・スイッチを入れると、単純に音が馬鹿でかくなって歪む。だからボリュームを落とさないといけない。そのかわり、バスとトレブルのコントロールができる。ゲインも、クリーン、オーバードライブ共通で使える。

 こういう使い回しのよさみたいなのはVOXの方が優れているのかな。そういう気の利いたアンプという印象が残った。

さてどっち?

 試奏の結果選ばれたのは、VOX Pathfinder 10だった。

 なぜか? 理由は難しくない。なにしろ練習用に買うのだから、下手は下手に聞こえてくれないと意味がない。素直に、元の音を想像できる範囲で増幅してくれるというつつましさが好ましかった。それに下駄を履かせてくれないだけで、チープという感じではないんだ。ちゃんと鳴ってくれる、素朴だけどはきはきしている、やっぱり好印象。陶酔したいのならマーシャルと思った。けれど私は陶酔よりも、はっきり醒めて語り合えるほうを選んだ。ちょっとかっこつけすぎだな、わはは。

 もう一点、VOXがいいと思った理由がある。デザインがシンプル、そのまま旅行鞄になりそうな概観は、部屋に転がっていても邪魔にならない。マーシャルは、アンプでござるという主張があって、ありゃ若者にはいいけど私にゃ向かん。大きいのになるとそれもいいんだけれど、小さいのでそんなのはちょっと好かんかった。

 以上の理由でVOX Pathfinder 10。シンプル・イズ・ベストにして質実剛健。今でもこれにしてよかったと思ってる。いや、もちろんマーシャルを選んでても後悔はしてなかったとは思うんだけどさ。

おまけ

 うまくなりたいなら、冷汗脂汗かきながら弾くことだと思った。これがないと、人間進歩なんてない。


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公開日:2003.12.17
最終更新日:2003.12.20
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