カナリオスを弾いている、といっても私の弾いているのは随分簡単なもので、ホセ・ルイス・ゴンサレスの『ギター・テクニック・ノート』に応用練習曲として収録されているものだ。1ページに収まる、本当に小品という感じの曲で、多分有名なガスパル・サンスのカナリオスとは違う曲なのだろう。
ちなみにDelcamp.netでカナリオスのファクシミリを見ることができるのだが(2004年9月現在、バロックはまだ翻訳されていない。英語版のGaspar SANZページを見るとよかろう)、どう見ても違う曲。というか、違う曲もなにもこんな譜面読めない。イタリア式のタブラチュアなんだが、当時のギターの調弦なんて知らんし(どうも今のギターに同じようだ)、装飾の記号なのか、あちこちにいろいろ付いてるマークをどう読んだものかも分からん。けど、おそらく下の線が高音弦だろう。今のタブ譜はことごとく上の線が高音弦を指しているが、バロックの頃は逆のものもあったとリュートの講義で聞いたことがあった。確かにギターを構えると高音弦が下にくる。案外この記譜法は理にかなってるのかも知れない。
ホセ・ルイス・ゴンサレス編のカナリオスは極めてシンプルで、初心者でも弾けるところが嬉しい。2声部で構成され、実に8分の6拍子らしいリズムが繰り返す上声部を補足するように、低声部が第2、第4拍に入る。
この曲は技術的には難しくない。ゴンサレス師曰く消音に気をつけよとのことで、そうした基本的なところを注意しながら弾くのがおそらく正しいこの曲の付きあい方だ。しかし、そうした機械的な練習だけに終わるのはつまらない。無駄のなく、それゆえ美しい和声を感じながら、よりよい響きを求めて、そしてできれば音楽の深いところを探りたいと思わせる曲だ。けれどそもそも作りがシンプルな曲は、音楽的に弾くのが難しい。技術的な部分に逃げることができないからで、音楽をよく把握しよほど確信的に弾けなければ、ただなぞるだけに終わってしまう。いや、本当に難しいのだ。
この曲はシンプルなハーモニーが美しいといったが、それはつまり調律がうまくできていないと台無しということでもある。よく調律したつもりでも、この曲を弾いてみればしっくりしない。こういう場合は、大抵詰めが甘いのだな。だから調律を一からやり直す。すると実際、少しずつ高めに調律していたりするんだな。この曲を練習しはじめてから、チューニングに随分シビアになった。
私はチューニングが苦手なので随分助かる。チューニングの具合を確かめるのに都合がいいし、もちろんよいトレーニングにもなっている。実際、耳は鋭くなったよ。ちょっとの違いにも敏感になってよく気付くようになった。
あとは、音楽性だな。まあ、これが一番難しいんだけどね。