やっとこギタリストにジョブチェンジ

 タイトルにこそはジョブチェンジと書いたけれども、私はあえてここでクラスチェンジといいかえたい。クラスチェンジというのは、かの名作RPG、Wizardlyの用語であり、和製RPGの用語でいうと転職にあたる言葉だ。ただWizardlyの場合、転職に関するペナルティは、他のRPGに比べてもかなり高い。

 クラスチェンジによって引き継がれるパラメータはH. P. のみであり、覚えた呪文は忘れないものの、使用可能回数はそのレベルにおける呪文数にまで引き下げられる。引き下げられるというならば、特性値の引き下げはかなりシビアだ。それぞれの種族(Wizにはいつつの種族がある)の基本値にまで特性値が引き下げられ、故に転職後はH. P. が高いだけのでくの坊にもなりかねない。

 あ、そうだ、クラスチェンジでひとつだけ上がるパラメータがあった。それは、年齢だ。5歳ほど年齢が増えて、――けれど、こんなの増えてもちっとも嬉しくない。

今日は演奏会

 なんで、こんなマニアックなことをくだくだ書いているのかというと、今日、ちょっとした縁から出演することになった演奏会で、まさしく私はギタリストにクラスチェンジしたのだなと実感するところがあったからだ。

 ちょっと前からアンサンブルに関する記事が公開されていたことに気付いていた方もいらっしゃろうが、実はこのアンサンブルというのは、今日の日のための練習であったのだ。友人に誘われて、ちょっとだけならいいよと返事したのが運の尽き、あれよあれよとやることは増えて、私には実に手いっぱいの演奏会となった。実際いっぱい足も出して、私としては非常に不満足の演奏会であったのだが、演奏者がそれなら聴衆はなおさらだろう。正直、申し訳なく思っている。まあ、思ったところで免罪になんてならないんだけれども。

 例えば、私はギターをはじめる前にはサクソフォンを吹いていたのだが、これは結構長期間、結構まじめに練習してきたこともあって、そこそこの水準には達していた。アマチュアなら上位にあるといってもいいと思う。Wizardly風にいうと、マスターレベル(Lv. 13)に達するかどうかという、ある種微妙な位置にいたと自分では感じている。

 Wizardlyにおけるマスターレベルは微妙だ。マスターレベルに達した冒険者なら、最後の敵であるWerdnaに打ち勝つことは可能だ。だが、Werdnaに勝てても地下十層を徘徊するGreater Demonには勝てない。これくらいの微妙な位置にマスターレベルの冒険者は位置している。

 私がサクソフォンを廃業すると決めたのは、いくら練習しても打ち勝てない曲があると感じていたためであり、それに私の特性にサクソフォンは向いていないのではないかという疑問が加わったからだ。職業に特性がマッチしないというのは不幸である。才能のあるMageなら、マスターレベルに達すればすべての呪文を使うことも可能だろう。しかし、私はそうではなかった。覚え残しがあり、しかもそれは、かなり有用なものであったように思われた。そのまま研鑽を積んでも、後いくつレベルをあげても、その有用なスペルを覚えるにはいたらないのではないかという不安が、私にサクソフォンを断念させた。いや、今から思えば、続けていればいずれ開花することもあったのではないか。しかし、あの頃にはそういう考え方ができず、私はサクソフォンを廃業した。

 その後、ちょっとした思いつきがきっかけして、私はギターを手にするようになったのだが、この転身は思い切ったものだったと思う。Wizardlyでの例えを続けよう。Wizardlyにおけるクラスチェンジでは、まったくといっていいほどメリットのないものが存在する。例えばFighterからMageへの転職。引き継がれるのは高いH. P. だけであり、しかしFighterのFighterたる所以である戦闘力は失われる。そして、特性値は基本値にまで下がる。メリットがあるといえば、死ににくいだけであろうか。ともあれ、サクソフォニストからギタリストへのクラスチェンジは、FighterからMageへの転職に似ている。

 サクソフォンから移るなら、例えばクラリネットやリコーダー、せめてフルート、金管楽器といった、吹奏楽器であるほうが有利だ。サクソフォンで培った腹式呼吸や呼吸のコントロールは新しい楽器でも生かせるし、発音の機構が同じクラリネットならなおさらだろう。しかし、サクソフォンとギターにはあまりに共通する要素が少なすぎる。発音や呼吸法、運指など、サクソフォンで得た技能をギターで生かすことは困難である。

まとめ

 私がサクソフォンからギターに移って、残ったものとはなんだったかといえば、結局は音楽の知識と経験だけであったのだと思った。音楽の知識は、楽器が変わったからといっても無駄にならない。そして経験。ギターとしての経験はゼロだが、舞台での経験はこれでも結構豊富だ。逃げ方、いなし方、かわし方は、まったく同じようにとはいえないものの、ギターでも共通するところがある。そして本番の度胸、緊張感のコントロール。これらはやはり、まったくの初級ギタリストよりも一日の長があるのではないか。こうした経験や知識こそは、WizardlyにいうH. P. に通じるものがあると思う。

 とはいっても、私がパーティ(アンサンブル)の中で、足を引きかねないというのは事実であって、実際私は今日の本番で何度も足を出した(しかも結構致命的に)。なんとか収めたりごまかしたりはしたものの、あれらは失敗って絶対にわかるほどのもんだし、けれどやはりパーティメンバーの庇護があったから、私はこうして生きて帰ってきて、こうして文章を書くことができるのであるなと思うのだ。

 庇護といえば、今日の会場もよかった。私は、今日がクラスチェンジしてはじめての舞台だと最初にいってしまっていたので、非常に好意的に受け入れてくれた。もちろん、一人前のギタリストと認めてはもらっていないさ。この階層におりるにはあまりにレベルが低すぎるという意見もあって、それはもちろんだ。甘んじて受けねばならない。しかし、総じて非常に友好的であって、私はいい場を復帰戦の第1場とすることができた。非常に幸運であったと思っている(そういや、人間の基本値は運が高めだったな)。

 こうしてよい場、よいメンバーとともに、ギタリストとしての最初の経験を踏むことができて、私はようやく自分がギタリストになれたなと思ったのだった。ま、ギタリストになったといっても、せいぜいがLv. 1 ギタリストといったところだろう(つまりなんの役にも立たない)。しかし、これまでがたまねぎ剣士だったことを考えると、例えLv. 1であっても、ギタリストにジョブチェンジできたのはよかった。

 ま、特性値は種族の基本値まで下がってはいるんだけどね!


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公開日:2005.07.03
最終更新日:2005.07.03
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