ギターをやりたい、いや撥弦楽器をやりたいと思ったのは、実を言うと弾き語りをしたかったからだったりする。私のやっていた管楽器には弱点がある。以前挙げた弱点――ひとりだけでは完結しにくい
ということ以上に私にとって問題だったのは、演奏しながら歌えないということ。管楽器は伴奏楽器としては不完全で、ひとりで弾きそして歌うということができないのである。
だから弦楽器。手軽さ、身近さからギターをやりたいと思っていた。
はじめようといいながらなかなかギターをはじめなかったのは、資金と時間の不足のほかに、長く続くかという根気の問題もあった。
私は飽きっぽいのだ。
いろいろなものに手を出して、中途半端に中続きするかあるいは途中で辞めていくか。大抵はこのどちらかを辿る。中途半端であっても続けばまだしも、辞めてしまうとなると導入に資金が必要であるギターは危険である。安いギターを買うのも厳しいが、高いギターを買って投げ出すのはもっと厳しい。
このかねあいをつかみあぐねて手を出せずに、街角のギター少年を遠巻きに見ていた。手を出さなかったのにも理由があったのである。
だが、いざギターを買おうと思い至った時には、さしたる理由がなかったのが面白い。やっぱりギターやりたいな、こんだけ長い間考え続けていたのだから、もうそろそろ大丈夫だろうと思った。実に五年が経過していた。
ギターを買うにあたって、適当に情報を収集した。よいギターはやはり高いらしい。アコースティックギターで数十万を超えるものはざらであって、でもよい楽器ならそれも当然だろう。だがいきなりそんな額は払えない。数万というのが手ごろだろう。
何店か楽器屋をまわって色々聞いてみても、いきなり高いものではなくそこそこのものを買えばよいのではないかというアドバイスがある。安くてつくりがしっかりしているものもあるという話だから、だいたい店員の示すものを入門用としてあたりをつけておいた。
二万円を予算と決めた。
仕事を終えて楽器屋に行こうとした時、偶然ロックギタリストでもある大学教員に出会った。
これからギターを買いに行こうと思ってるんですよ。なんかいい店とか知りませんか。
そうしたら、親切に色々教えてくれた。先生のお勧め、それがESPだった。
今から考えるとESPというのはエレキギターの店なんだけれど、まあアコースティックギターも売っているので先生の教えは間違ってなかったといえる。閉店十分前くらいに飛び込むようにして、アコースティックギターを買おうと思ってるんですが、と店員に話し掛ければ、気さくに色々出してみて音を鳴らしてくれた。
アコースティックギターといっても、だいたい大きくふたつに分けられ、ボディの小さな(伝統的サイズの)フォークタイプとボディの大きなドレッドノートタイプ。どちらかといえば軽くて明るくて派手なものよりも、落ち着いて響きの太いほうが好きですといえば、それならドレッドノートでしょう、ということでいくつかドレッドノートを弾いてくれて、予算のなかで色々比べて、もうちょっといいというものになるとどれですかと聞けば、出てきたのがAriaのAD-35だった。
定価三万五千円でちょっと予算オーバーだが、二割引の二万八千円という値がついて、ええい思いきって買おうと思い立った。買いますといったら、まさか買うとは思われてなかったみたいで、慌てたように弦とピックを二種類(おにぎり型とティアドロップ)サービスしてくれて、ちょっと嬉しかった。
はじめて買ったギターはそれだけに愛着があって、時間の許すかぎり弾くようにしている。そうして弾いているうちにだんだんいい音がするように変わってきた。最初の変化は一二ヶ月、いや三ヶ月目くらいに訪れて、音がふくよかで柔らかく、そして伸びるようになってきた。
大学の教員がいっていた。最初は安いものでいいから、とにかく弾きつぶすつもりで弾いて弾いて弾ききったほうが結果うまくなると。それにチチ松村も言っている。
でも、ギターは弾かなきゃ、ダメなんですよ。高いギターは、高いお金を払ったことで満足してしまう。拾ってきたギターなら「割れてもいいや」としょっちゅう使うから、これが反対によくて、いい音が出るようになるから不思議ですよね。
ゴンチチ「どんなギターでも弾き込むことが大切」『NHK趣味百科 アコースティックギター入門』所収【,16-18頁】。日本放送出版協会,1996年。
いずれはもっと高いギターを求めるのかも知れないけれど、今はこのギターと一緒に育っていきたいと思っている。
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