打田十紀夫と4本のギターに行ってきた

 打田十紀夫氏は、フィンガーピッキングスタイルのギターをやっている人ならまず知らない人はいないだろうというくらいの人で、TABギタースクールを主宰し、演奏家として以外にも、教育や出版、輸入販売と幅広い活動によって、日本におけるフィンガーピッキングスタイルを牽引してきたといっても過言ではない。そんな人が大阪にくるというのだから、ぜひ聴きにいかないと。というわけで、出不精の私をして会場に駆けつけたのであった。場所は岡町あーとらんどPIA。2005年10月9日夜19時スタートだ。

まずはRootsからスタート

 オープニングアクトは、私にとってはもうおなじみのRoots。アイルランド、イギリスの伝承曲をレパートリーとするヴァイオリン、ギターの二人組で、私は結構ギターの天満氏のファンで、なんとかあの技術を盗めないだろうかと虎視眈々とうかがっている(これってファン?)。

 天満氏のギターを聴くのはこれで三度目だが、Rootsの演奏というと二度目である。以前聴いたときは、小さな会場での演奏だったから、PAとかも必要なく、本当に間近で、生の音響で聴くことができたのだが、今回はそうはいかない。マイク付き、ピックアップ付きで、PAを通した音響が印象をがらりと変えていて、正直なところ、ヴァイオリンは空間系効果をかけすぎだったと思う。とはいえ、この感想というのもいい加減なもので、そもそも私は(私らはという表現の方がいいかも。クラシック出身者と思ってくれい)アンプを通した音が好きでなく、いわんやエフェクターをや。あの空間系は特に好きになれないのだよ。ギターの、マグネチックを通した音はさすがに慣れているからか、今やなんとも思わないのに、ヴァイオリンなら気になるんだな。多分、慣れていないからだろうと思う。慣れていない頃は、ピエゾの音には耐えられなかった。

 でも、やっぱり正直なところ、ギターにせよヴァイオリンにせよ、アコースティックな楽器はアンプを通さないほうがずっといいと思っている。

打田氏の演奏

 そして、打田氏の演奏。ライブタイトルにもあるように、4本のギターを引っさげての登場。ギブソンの12弦。アミスターのリゾネーター。トンプソンとクレセント・ムーンの6弦。私には12弦とリゾネーターが興味深かった。レコードやDVDで聴いたことはあるものの、実際に目前で演奏されるというのははじめての機会だ。それに、リゾネーターならスライドが期待できる。スライドの演奏に立ち会うのも、これがはじめてだ。はじめて尽くしだな。

 聴いてみての感想。12弦にしてもリゾネーターにしても、想像していたほどのキャラクターの違いはなく、いや、確かに違いはあるのだ。けれど、想像したほどじゃない。12弦はさぞきらびやかといえば、むしろブルーグラスっぽい響きであったし、リゾネーターは暴れ気味の音でみたいに勝手に思っていたのが、思っていたよりも落ち着いていたといった始末。まあ、いろいろこうやって想像の音と現実の音をすり合わせていくのがよいのだろう。

 打田氏の演奏は、実に普通で実にまとも。淡々というのも違うし、飄々というのもやはり違うけれども、あるべきものをあるべきように表しているという過不足なしの演奏だ。汗をかきかき興奮のるつぼに、というような局面はついぞ見られず、アクロバティックなところもきっとあったには違いないのだが、そうした風もまるで見られず、つまり技術が高いのだな。安定しているから、安心して聴ける。のりはいいし、音楽性も高い。綱渡りするみたいなスリルは味あわせない。軽妙洒脱な音楽が続くが、その実ベースはといえばどっしりしているなあ。そういう演奏だ。

 ところで、途中のしゃべりがめちゃくちゃ面白いのはどうしたもんだろう。ネタができあがっている。笑わせるポイントができあがっていて、持ちネタの中心にプロレスがあるのも格別で、プロレスファンならギターを知らなくても聴いて楽しいんじゃないだろうか(本当か?)。嘘だと思うなら、打田氏のサイトに行って“秘蔵写真&秘話”館をのぞいてみるがよい。めちゃくちゃ面白いから。私、さっきから腹がよじれそうで、これ、ギタリストのサイトの記事としては不適切だけど、そうしたものを楽譜集にも載せるんだもんなあ。よっぽどプロレスがお好きなのでしょう。実際、そうした雰囲気はトークにもサイトの記事にもあふれていて、私はそれだけでなんかいいなと思ってしまう。いや、どこか間違った感想かも知れないけれど、気にしない気にしない。

終演後

 本当はCDだとか欲しかったのだが、残念ながら手持ちがなく断念。だって、四百円しかなかったんだもん。サムピックひとつ買えやしない。多分、今日の客の中で一番金を持っていなかったのは私だ。って、威張るような話じゃないんだけど。どちらかというと、みっともない話だもんな。

 CDは買えなかったけれど、打田氏とは話をすることができて嬉しかった。しかしその話というのが、ギターケース防水カバーというのも変な話で、実をいうと私はこのカバーが欲しくてたまらないのだが、値段が高いので見送っているのだ。

 ギタリストにジョブチェンジするきっかけとなった演奏会だが、実はこの日はすごい大雨で、正直休みたいと思ったんだけど、お客がいるからそういうわがままはきかない。だって梅雨時だったんだもんなあ。練習でも何度か降られて、当日も雨で、ギターもそうだが、メインの二胡はなおさら湿気に弱いしで本当に散々だった。

 あの頃、なんとか安全に楽器を運搬したいもんだと思って、ギターケースにかぶせる雨具みたいなのはないかと思ったら、それがTABギタースクールで売っていた。

 在庫限りとのことなので、なくなる前に買っておきたいのだが、なにしろ私は常に余裕がない。次のボーナスが出たら買おうかなあ。

 と、こんな話をしたという話。


こととねギターサイドへ トップページに戻る

公開日:2005.10.09
最終更新日:2005.10.09
webmaster@kototone.jp
Creative Commons License
こととねは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 - 継承 2.1 日本)の下でライセンスされています。