二千三年八月八日、第七十八番:錬金術師を訳出し終え、当初に第一段階と定めていたフランスGRIMAUD版GRAND ETTEILLA付属のリブレット翻訳が終わりました。最初に公開されたETTEILLA箱書きが二千一年三月八日であったことから、訳出には二年と五ヶ月の月日がかかったことが分かります。
二年あまりの間に訳者の語学力もHTMLに関する技術思想も大きく変化してしまっており、表記表示が一貫しないところも散見されます。単純に表記の統一が可能な場合は、できるだけ同一の表記、用語を用いるよう書き換えをおこなっておりますが、文章の釣り合いの問題から統一を見送ったものもいくつかあります。また原典のフランス語の持つ語感や語の示す意味の範囲を、基本的には日本語訳にもいかされるよう心掛けましたが、時にはあえて明確には示さず曖昧においています。それは、カードの意味や定義があまりに端的に記されているため、文脈を充分につかめず厳密に訳せないという技術上の問題もあったのですが、一訳者にすぎない私があまりに厳密にカードの定義をしなおすことは、これら文書群を参考にETTEILLAを読み解こうとする解釈者たちの自由を奪ってしまうのではないかと怖れたためです。
基本的にカードとは、カードの解釈や定義、説明に表れる記述内容と一意的に結びつけられるものではなく、曖昧に、その時々の状況に応じて、暗示する内容とその範囲を変化させるものです。このように考える私にとって厳密な定義はむしろ自由な解釈を妨げるものであり、これら訳出された文書群は参考程度に留めるべきものです。特に断定的な表記が目立ち現実にそぐわないと思われる際には、より曖昧に現実にそぐうよう解釈、定義し直すべきであると、いくつかのカードを読んだ折りに強く感じました。
注意すべき表記の揺れの最たるものは、GRAND ETTEILLAに特徴的なコンサルタントという概念に対してでしょう。ETTEILLAは第一番:カオスを男性コンサルタント、第八番:イブを女性コンサルタントとして重視します。コンサルタントとは相談者や受診者という意味合いを持ち、訳出の際にはコンサルタントという表記と相談者という表記を併用しています。コンサルタントという語がカード(第一番及び第八番)を指している場合にはコンサルタントと表記しました。コンサルタントがカードの説明の中に用いられ、カード(第一番あるいは第八番)を指していない場合には相談者と表記しました。受診者と表記したこともありましたが、現在では相談者と統一しています。
曖昧に訳した語の代表的な例として、affaireを紹介します。Affaireは非常に広範な意味を持つ語であり、問題や出来事などと一般に訳しますが、商取引や事業、あるいは事件などを表すこともあります。明らかに取引やビジネスを表している場合はそのように訳しましたが、それと限定できない場合、あるいは商取引等を表すと思われるがあえて限定する必要がないと場合には、affaireという語が示す範疇を逸脱しない限りにおいて曖昧さを持たせました。