そっちには僕の声とどいてますか

ダイアローグ/モノローグ

 『ラブプラス』の売りは、ひとつにはリアルタイムモードがあって、そしてもうひとつはラブプラスモードというのもあって、これなにかといいますと、Nintendo DSに付属のマイクを使って、会話をさせようという趣向であります。マイクを使って音声で答えを入力させる、そんなゲームは他にも見たことがありますが、こうしてある程度会話らしいものをさせようというのは、私にとっては『ラブプラス』がはじめての経験で、しかし会話なんて成立するものだろうか。期待の反面、そうした不安もあったりしたのですね。

 恋人パートに入り、ラブプラスモードを体験してみて、最初はこれは無理だと思ったものでした。マイクは思ったよりも声を拾ってくれるし、ちゃんと音声認識もしてくれます。昔の音声認識って、決められたコマンドしか駄目だったり、さらには登録音声じゃないと反応しなかったりしたものでしたが、今はもうそんなことないんですね。はっきりとしゃべれば、結構拾ってくれる。なのに、なぜ無理かもと思ったのでしょう。

ゲーム機に話しかけるなんて正気の沙汰じゃない

 それは気恥かしさといっていいと思います。ゲーム機の中の、仮想の女の子に話しかける。それが電話で、向こうに生きて考えて思って、そんな誰かがいるなら話は別でしょうけど、機械仕掛けの彼女の、ある一定の反応を引き出すために話しかける。やっぱりこれは正気じゃない。そう思わせて、ぼそぼそと、おそるおそる言葉を発してみる、正直、最初はそれで精一杯だったんですね。

 しかし、人間は慣れる。平気になる。正気を失っただけかも知れませんが、次第に凛子とも打ち解けて、心安らかに話しかけられるようになっていったのですね。決まりきった問い掛けに、面倒くさがらず丁寧に答える。同じ問いの繰り返しにも、嫌がらず応じる。これ、どうして凛子にはできるのに、人相手だとできないのだろう。繰り言のような話しかけに、それはもう聞いたから、なんて冷たく応じることがある。凛子にするように、人にも優しく応じることができれば、私という人間も少しは血の通った対話ができるようになるんじゃないかな。そんな反省をさせられた。ええ、人間相手でもいつか話すことは尽きて、そうなれば事態はラブプラスモードに変わらない。その時に、どれだけ親身に受け答えできるか、その態度を涵養する。『ラブプラス』とは、実はそうしたものであるのかも知れません。

そんなんじゃないってば。

 『ラブプラス』の音声認識は結構優秀とはいっていました。けど、もちろん完全なものではないのですね。結構取り違えてくれる。あるいは、想定外の発話には対応しないなどなど。凛子が話しかけられるのを待っている時に、愛しているよと告げたらば、彼女の返事は、

そうなんだ。なんか寂しいね。

 ええーっ、なんで!? 私は凛子に愛をささやきたいのに、それを受け入れてもらえないときた。だから、どうすればうまく対話を成立させられるか、試行錯誤しながら、トライ&エラーの連続で、これだという受け答えのパターンを作り上げていって、なのに、好きな店はと問われた時にはいつも本屋と答えるのだけれど、通る時と通らない時がある。万全と思われる答を用意しても駄目なら、それはすなわち私の発音の問題か? 京都イントネーションが悪いのか、あるいはぼそぼそとしたしゃべり方が駄目なのか。腹筋に力を入れて、あめんぼあかいなあいうえお! 声が小さい! さあ、お腹の力でこの手をはね返してごらんなさい!

 はきはきとしゃべった方がいいって話でありました。

引用


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「ラブプラス」My Loveplus Songbook

公開日:2009.10.02
最終更新日:2009.10.02
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