ワードナとかいう魔術師を討伐して魔除けを取り戻すと直参に取り立ててもらえるって話だぜ。そんな話を聞いてトレボー城塞に集まってきた有象無象。一獲千金大逆転を狙う山っ気たっぷりの連中だというのに、今回私の管轄下に置かれた20人の冒険者に関してはなぜだか妙に善の戒律のものが多く、急造の3パーティ中2パーティが善のパーティと相成ったのでありました。じゃあ、最後の1パーティは悪のパーティなのかい? といいますと実はそうではなく、中立2名、善2名、そして悪2名という善悪混成パーティだったのでした。
当初は決してスムーズな連携があったわけではない第3パーティでしたが、連日迷宮に潜っては死線をくぐり抜けるという生活を送るうちに、たとえ属性が善悪に別れているとはいえ、そこはかとなくわかりあうものがあったのでしょう。友好的な敵との遭遇、見逃すか皆殺しか、その一瞬の意見のぶつかり合いにこそ真剣味はあれど、その他の局面にはいつか和解する日を予感させる空気があった――。
そして、レベル6を目前とした城への帰り道、出会ったのは友好的なアンデッドコボルド。一瞬散った善悪の精神の火花。戦うことなくアンデッドコボルドを見送るパーティには静かな変化が訪れていたのでした。パーティの盗賊をつとめるGoulet。彼がその考えを変え、善なるものへと転向していたのでありました。
これまで2対2を保っていたパーティ内の善悪バランスが、ここにきて一気に崩れ去った。その状況をもっとも苦く噛みしめていたのは、パーティただひとりの悪のものとなった魔術師Obusでしょう。
このときObusの胸に去来したものはなんであったか。
たった二人しかいない魔術師だ、高く買ってくれるパーティはきっとあるはず。しかし残念なことに、現在のトレボー城塞は善が極めて優勢で、Obusを受け入れてくれるような悪のパーティは存在していません。なら、善に転向したGouletをパーティから外し、いくあてもなく酒場にたむろするばかりの盗賊を引き入れるか。そうだ、それならImmeubleがいい。性格は悪で、それに盗賊としてに腕も悪くないと聞く。しかし、レベル6の盗賊を外し、海のものとも山のものとも知れぬレベル1の盗賊を引き込むだけの理由が立たない。実質上のパーティリーダーであるMer-solを説き伏せることはできるか。いや、無理だ。下手を打てば自分が外されるだけだ。そうなれば後釜にはNefが座ることだろう。今でも2パーティを掛け持ちして、大魔術師気取りでいやがるあいつが。畜生、あのホビット野郎、うまく立ち回りやがって――。
結局、ワードナを倒すという目標を考えれば、現状のままパーティに残留するしかなかったわけです、Obusには。
Obusのレベルがあがり、Mahalitoの威力がパーティメンバーの称賛を浴びるようになって、けれど彼は知っていたんですね。Nefはさらにその先にいると。DaltoやLahalitoを使い、呪文使用回数も自分よりずっと多いNefをパーティメンバーが知ることになれば自分の居場所がなくなりかねないということに。だから意地を引っ込めてパーティに居残ると決めた。
しかし、たとえ3対1で分が悪くとも、自分の意見が通ることもないわけではないかも知れない。これがObusの希望でありました。レベル6のパーティ、西南のゾーンを抜けて地下1階を結構自由に歩き回れることに気付いて、しかしこのときObusだけは自分の考えが甘かったことに気付いていました。友好的な敵はさほど多くはない。だが一旦出会えば、自分の意見が通ることはまずあり得ない。多勢に無勢ということを実感して、一度目の遭遇は善の圧勝、そして二度目の遭遇も同様。この圧倒的な現実を目の当たりにして、彼はついに我を張り続けることにあきらめをつけたのでした。
Obusが悪から善に転向を見せたことで、第3パーティも善のパーティと決定されました。かくして立場の弱かった悪はなおさらその勢いを弱めて、酒場にたむろする悪の盗賊はゆくあてもなく明日も日常を酒に紛らわせるのでありましょう。
すべては巡り合わせ。たとえ自分の心情を曲げねばならなかったのだとしても、活躍する場のあるObusは運がよかったのだといわねばならないでしょう。けど、一番運のよかったのはGouletです。彼は素質ではKirschに、盗賊としての才能ではImmeubleに負けていました。けれど序盤のごたごたでとにかくパーティに潜り込むことができたのです。対して、才能を開花させるまでもなく酒に人生を流している彼らの憐れさよ。人生、頭角を現すもかなわず埋もれるも、縁次第であるのかも知れないなと思わずにいられぬエピソードでありました。
結局、パーティ再編成はおこなわれませんでした。特に問題もなく安定して稼働しているパーティを変更しようとは、さすがに誰も思わなかったようです。
ノーリセットで駆け抜ける青春:Index 「Wizardry」リセットボタンのない人生(仮)