私はかつて記憶力には自信があって、かなりのことを覚えていたものですから、あえて記録をとる必要などはなかったのです。ですが、寄る年波には勝てないといいますか、三十を過ぎた頃からだんだん記憶の混濁することが増えてきて、昔のような異常記憶はなくなってしまいました。
今、こうして自分のサイトに書いている旅行記ですが、他の人がどうこうというよりも、むしろ自分にとって大切な旅の記録になっているのですね。イタリア紀行からの記録しかありませんが、旅した頃から離れるほどに意味深いものになっているように思います。
さて、今回の旅行はいつものものに比べても短い、一泊二日の小旅行です。行き先は石川県の片山津温泉。なんか、私の場合、国内旅行となると温泉ばっかりにいっているような気がしますが、別に温泉大好きというわけでもないんですけどね。でも、旅先が温泉地になるのは、嫌いではないということでもあるのでしょう。
今回の旅行の目的は、特になにがあるわけでもなく、一応蟹が食べられるというようなツアー? だったのですが、実をいうと私は蟹はあんまり好きじゃないんですね。殻むくのが面倒くさい。だから、本当にあまり期待しないでいった、そういう旅行でありました。
今回の旅行は、パックツアーといえばパックツアー、そうでないといえばそうでないというような感じの旅行で、パックツアーらしいところといえばまずJR京都駅に集合して、特急のチケットをもらう必要があるんです。で、その後は自由行動。まあ、特急は席が指定されているから自由なんて感じではありませんが、別にまわりと合わす必要があるわけでもないから、自分で席を取って乗る列車となんら変わるところはありません。
このところ新撰組に凝っている私は、車中で『燃えよ剣』の上巻を読んで、途中で疲れて寝てみたりまたは駅弁食べてみたり。旅のお供はiPodで、だからこの辺は本当に旅の情緒という感じではなくて、けれどいつもの通勤電車とも違うから、半旅半日常というような気分。半パックツアー半自由旅行という曖昧旅行にはふさわしい態度のような気もします(ほんとかなあ)。
途中、車窓から外をうかがえば、雪が積もって真っ白になっていて、今年は異常な積雪がニュースになるくらいに雪が降っていますが、これら雪景色もその異常寒波のためなのかも知れません。山は白く、田んぼも白く、着駅JR加賀温泉駅を出ても雪は積もっていました。
さすがに道の雪は取り払われて、歩くには問題はなかったのですが、道の脇には雪がどっさりと積みあがっていて、日本海側と京都内陸ではずいぶんと雪の降りも違うのですね。
あ、そうだ。書いておくべきことがあった。JR加賀温泉駅のプラットフォームに降り立って、いったいなにが驚いたといっても、あの山中にたたずむ巨大観音像でしょう。なんだあれはー! と驚いて、まさかあれをこれから見に行くんではあるまいなとも思って、けれどまずは旅館にチェックインです。駅前まで旅館のマイクロバスが迎えにきているはずで、少林寺拳法の少年少女がなにか鍋を振る舞っているのを見やりながら、旅館からやってきたバスに乗り込みました。
あ、そうじゃ。今回はカメラ持っていくのを忘れたから、写真はなしです。ああ、失敗したかなあ。
マイクロバスが出発して数分、ホテル北陸古賀の井に到着しました。実は私は北陸という土地に憧れを持っていまして、ひなびた温泉街、古い木造の旅館の窓から見下ろす通りには人々が行き合うのが見えて、のんびりしているやね。そうした時間を過ごしたいものじゃと思っているんですが、残念、ホテル古賀の井はなんのかんのいって新しい建物で、けど最新でもないという、そういう微妙にすすけた感じが私のノスタルジーを刺戟するようで刺戟しないのですね。
フロントとそのまわりは綺麗にこざっぱりとしていて、軽くぐるり一階をめぐると、ラウンジがあったり申し訳程度のゲームコーナーがあったり、昭和の温泉宿といった感じでしょうか。二階にあがればあがったでばっちり卓球台もあって、このへんも昭和のホテルなんでしょう。けど卓球台は意外に新しかった。昭和風というのも、それはそれで更新されながら演出されているのでしょう。
部屋は和室。トイレは様式、近代的で清潔で、私はトイレが汚かったり古かったりはどうにも耐えられない神経質さがあるので、これはありがたかった。実は廊下を出たところにもトイレがあるのですが、こちらはなんか昭和風、いや汚くはないんですが、必要最低限のトイレといった感じで、正直これを見たときにはちょっとひるみました。
部屋に入って、実は私は小さなギターを持っていってましてね、早速チューニングしてみて、座椅子に座ってぽろぽろ弾いて、確かにちょっとのんびり気分です。これでホテルがホテルじゃなくて、古い旅館とかだったら完璧だったなあ。いや、そういう旅館というのももはや存在していないんじゃないかと思うんですけどね。
片山津温泉には大きな湖があって、柴山潟というのですが、私の泊まった部屋からは、残念、湖を眺むことはできませんでした。柴山潟は片山津温泉の観光スポットであるのは確かであるようで、ホテルや旅館はこの湖に面して、客室から湖を見えるようにしているところも少なくない模様です。
ホテルで人心地ついて、じゃあこのあたりを散策しようじゃないかと、レンタサイクルを借りるという手もありましたが、まあぶらぶらと歩くのも悪くないでしょう。iPodはコートのポケットに、けれどせっかく旅の地にあって日常を持ち込むのも無粋。イヤホンは使わないまま、ポケットにしまわれていました。
湖沿いに並ぶホテル、老人ホームなどを横目に見ながら、まずは中谷宇吉郎雪の科学館へ向かいました。中谷宇吉郎というのは、雪の結晶の研究などで知られる北大の教授で、石川県の出身といいます。片山津温泉に関係が深いのでしょう。
ほどなくして、雪の科学館へ到着。まずは建物は素通りして、湖に張り出すように突き出た突堤なんでしょうか、から柴山潟を見渡しました。右手にはこれまで歩いてきた道沿いに建つ旅館、ホテルが見えて、その中に見える青屋根が私の泊まっている旅館です。湖のあたりに吹く風は冷たくて、じっとしていれば凍えそうにも思えて、けれどここで待っていれば噴水が見えるという話。柴山潟の中央には、高さ70メートルまで水を吹き上げる噴水があるということなのです。
ですが、あまりに寒いものですから、噴水はあきらめて戻ろうと。突堤、いちだん高くなったところには湖を展望できる喫茶店があって、その中に三脚を立ててカメラを構えている人の姿もみえました。湖の写真を撮るのでしょう。噴水を待っているのかも知れません。
ちょうどその喫茶店の横を通り抜けようとしたとき、背後で噴水があがりました。私は振り返って噴水を見て、それは大きなものでした。けれど私はそれほどには感動したりはしなかったな。ええ、こういうものに対しては感情が薄くできているようなのです。
雪の科学館に入ろうかどうかすこし考えて、ですがここは断念しました。夕食の時間は決まっています。ここにはいれば、きっとそれだけで残り時間を食いつぶすでしょう。だから、入り口、玄関を見ただけで雪の科学館を後にしました。
旅館の部屋に用意されていた片山津温泉イラストマップで、どこへいこうかと思案していた時のことです。私の目に飛び込んだのは首洗池の三文字でした。首洗池!? この名前を見れば、明らかにそこは古戦場あるいは刑場跡と推察されるではありませんか。目的地としては欠かすことができないと思いました。思いましたね。
雪の科学館を過ぎて、歩くこと数分。国立石川病院を過ぎた左手にその池はありました。小さな池。いわれのある場所と知らなければ、そのまま通りすぎそうな池です。池のそばには案内の看板も掲げられていて、その説明には単騎木曽義仲の軍勢に立ち向かった斎藤別当実盛が打ち取られ、その首が洗われたというのがこの池なのだそうです。実盛は老武者と見られるのを嫌い、髪を黒く染めていたといいます。首を洗うことでその髪は見る見る白髪に戻り、かつて義仲を助けたこともある実盛とわかったのですね。その時の義仲の胸中はいかなるものであったか! といっても私はこの話、首洗池に実際いってみてはじめて知ったものなんですけどね。
石川県教育センターのサイトに、首洗池を説明するページがあります。実際この説明が首洗池そばにあった説明であったと記憶しており、このページに写真がありますが、実盛の兜を前にその首を書き抱く義仲の像もあり、またこの地で芭蕉が詠んだ句を刻んだ句碑もあります。
しかし、今でこそ平和なこの国ですが、もう私たちが忘れてしまいそうになるほどの昔には、こうした悲劇もたくさんあったのでしょうね。しかして義仲の胸中はと思えど、きっと現代にすむ私たちには思うことさえも遠いように思えます。
首洗池を後にして、次の目的地は加賀・能登海産物センターです。源平橋を渡り、日本海側へちょいと歩いて、北陸自動車道が間近に見えてきたら右折してまたちょっと歩く。そうしたら左手に見えてくるのが海産物センター。その名の通り、この近辺でとれる海産物を売っているのでしょう。蟹や海老があるのは当然として、塩辛やらへしこやら、酒飲みにはたまらない珍味がそろっています。くちこ(なまこの卵巣を干したもの)なんかもありました。くちこというのは、珍味のなかでも高級珍味として知られたもので、私は食べたことがないからどんなものなのか全然想像さえできないのですが、とにかく酒飲みには人気のある肴です。ですが、これが高い。数千円。それこそ四千円とか五千円とかする。で、もし私が酒飲みだったら買って試してみたりしようという話にもなったのでしょうが、なにしろ私は酒はほとんど飲みませんから、一度味見してみたいと思いながらも見送ったのでした。
ここでは職場への土産を買いました。蟹風のフライ。蟹風というのがみそで、実体はたらです。でも私はこういうまがい物というか、つまみのようなものが好きなんですよね。ほら、チーズたらとかも好きで、多分白身の魚がつまみに加工されているという、そういうものが好きなんでしょう。で、私はこれを土産に選んで、職場の土産にそんな酒の肴みたいなの買うなんてといわれたりもしましたが、実際職場では好評でありましたよ。おお、気の利いたものがあるじゃないかみたいな感じで、あっという間に食べられてしまいました。
あ、一応断っておきますが、海産物センターとはいえ、ちゃんと普通のお菓子もありますよ。いかにも土産というようなお菓子、饅頭、キーホルダーやら、いったいどこが卸ろしているのか全国あちこちで見かけるようなおもちゃもあって、この辺はやっぱり観光地温泉地と思わせたのでありました。
海産物センターを出て、帰りは汐見橋を経由。汐見橋からは遠くに日本海も見えて、けれどわざわざ見にいくということはしませんでした。遠いし時間も余裕があるわけでなしで、なので次の目的地、芸妓検番を目指します。芸妓検番とは客と芸妓を取り次いだりする場所なのが、ここでは芸を見せたりといったこともあったようです。
と、その前に一旦宿に戻って、フロントに荷をあずけます。いくらなんでも魚を持っていくのも効率が悪い、あずけて身を軽くするのがよいでしょう。
宿から検番まではそれほどの距離もなく、ほどなくして到着。紅色の格子が特徴的な顔になっている建物はそれほど古さを感じさせず、今の町並みにも溶け込んでいるような雰囲気です。中に通ると、昔の片山津の写真が飾られていて、立派にヒゲを蓄えた紳士が芸妓を部屋に呼んで炬燵にあたっている写真もあれば、立派な自動車が止まっていて、そのまわりに芸妓がいるという写真も。いずれもかつての温泉場のにぎわいを感じさせるようなもので、今でこそ穏やかな雰囲気のある温泉地ですが、以前は格別の人出もあったというのでしょう。
一階には富久紗という名の喫茶店。二階に上がれば座敷に舞台。ぐるり壁には片山津の写真があって、ここの写真はカラー、今の片山津です。土地の写真家がとったものが飾られていて、そして片山津にまつわる漫画や小節がケースに収められている。在りし日の片山津温泉が描かれているというそうです。
階段脇の小部屋には芸者の髷を結った桂があって、あとは三味線やら、そうした道具が置かれていました。今はもう芸者遊びも流行らんでしょう。おそらくはそうした人たちはいないと思しく、遠くに過ぎ去った昭和、それも戦前を偲ぶようなそんな思いの花館でありました。
浮御堂というのは片山津温泉の湯元付近の湖上に浮かぶお堂のことで、浮きお堂というからには浮いているのでしょう。弁財天と龍王が祭られているお堂でありまして、湯の元公園からお堂へと渡る浮橋を伝ってお堂まで歩いていくことができます。
浮橋といっても頼りないものではなく、しっかりとした幅広の橋ですからびくびくおどおどする必要なんかなくて、しかし確かに歩いているとゆらゆらと揺れているような感じはします。橋そしてお堂は、なにも遮るもののない湖上にあるわけですから、冬の風がビュウビュウと吹きさらして寒い。がたがたと震えそうな思いでもって、お堂まで歩いたものです。
お堂からは件の大噴水が見えるということで、時間ももうじきという話であったのですが、もうとにかく寒くて早く陸地に戻りたい。寒さに対する抵抗力の弱い私(体脂肪がね……)ですから、そそくさと退散。その帰り道の橋の上、振り返れば噴水があがっているのが見えまして、喫茶冬の華でもそういやそうでした。とにかく噴水には縁のないのが私のようです。
湯の元公園には、浮御堂に祭られる弁天様と竜神の由来となった物語の記された案内板もあって、さらには片山津温泉の由来の説明もありました。片山津温泉は泉源が湖の中にあるらしく、そのため湯を導くための工事は困難を極め、温泉が見つかってから温泉地として繁栄するまで、長い期間を要したとの話です。
浮御堂に向かう道々ですでに降り始めていた雪がだんだんと強くなってきて、もう寒いのなんのって。なので後一ヶ所見たらホテルに戻ろう。その最後の一ヶ所というのはなにかというと、温泉配湯所。ここ、片山津温泉の泉源であり、ここから汲みだしたお湯を各ホテル、温泉場に配給するのだそうですね。そして、この配湯所まわりには足湯のできるようにお湯が張られているというのです。ええ、寒さも吹き飛びそうな感じではありませんか。
でも、実は芸妓検番に向かう途中、交差点の一角にも足湯のできるスポットがありまして、ですが、ところがここはお湯が完全に冷めてしまっていて、ええ、お湯が止まってたんですね。だから、もしかしたら、今は冬だからやってないかも知れないと危ぶみました。で、温泉配湯所。あの独特の三角の施設に近づいていったらば、もわもわと湯気が立っていて、あ、これはやってるなと思いました。配湯所の前にはお湯が張られていて、手をちょっとつけると確かに暖かい! けれど、もしここで足湯をしてもあっという間に湯冷めをして大変なことになるに違いない(川原泉の漫画で、そんな話がありました!)。なので、ここは足湯は断念。配湯所の中をのぞくにとどめたのです。
温泉配湯所の中は薄暗く、ポンプやなにかが動いているのでしょうが、具体的になにがどうなっているかはわかりませんでした。匂いはというと確かに温泉独特の匂いがしていて、ここは確か塩泉でしたか。でも、かすかに硫黄っぽいというか、そういう匂いもするんですね。
ホテルに戻るまでの行動を少し書いておこうと思います。
片山津温泉ではやっぱり温泉卵が名物になっていまして、片山津温泉総湯という共同浴場で買うことができます。けれど通りに面したカウンターには人がおらず、番台にて販売していますとの説明を見て、浴場の入り口側に向かったのでした。けれど残念ながら温泉卵は購入せず。ゆで上がったところのものがあれば嬉しいと思っていたのが、どうもそうではなかったからというのが一つ目の理由。もうひとつの理由は、もしかしたらホテルの食事に出るかも知れないというものでした。
次にいったのは酒屋です。このあたりにはいいお酒があるそうで、それがあったら買おうという話になって、でも私は興味がないから銘柄忘れちゃった。ただ、おつまみには興味があるので、チーズ鱈を購入。私は、このチーズ鱈という食べ物が好きなのです。
そしてホテルに帰還。部屋にてギターじゃかじゃか弾いて、ほいじゃあ温泉にでもつかろうかという気分です。
食事の前に温泉でも入ろうと、部屋でいそいそと浴衣に着替えて風呂へと向かいます。一階、風呂へと向かう廊下には温泉でのするべからずが絵でもって解説されていて、曰く酒を飲んで入らない、あがるときには温泉成分を流さない等々。でも、最近は温泉成分が残ると肌に悪いといって、最後に流すように推奨されますな。実は私は最後に流す派。だから、この温泉訓にはすべて従うことはできず、というわけです。
脱衣所に入ればこざっぱりとした質素な作りで、あまり広くはないのですね。ロッカーというか間仕切りのひとつに浴衣、着替えを入れて風呂へと向かいます。風呂場には湯船がふたつあって、入り口側には温泉の浴槽、中央には白湯なのでしょうか、なにやらそのような表示がしてありましたが、まさかただの湯ということはありますまい。ほのかに感じる匂いを考えても、普通の水を沸かしただけということはないかと思われます。
まずは中央の湯に浸かって、この湯は塩類泉という話なんですが効能は忘れました。なんていい加減! てなものですが、まあ私らしいということで。で、一通り暖まったら温泉の槽に移動したら、こっちはちょっとぬるめ。なので、ひとしきりつかって、また中央の浴槽に戻って、最後にも掛かり湯をしてあがりました。
ここで失敗だったのは、温泉場だから脱衣場にもバスタオルが用意してあると思っていたのがはずれて、ええ、部屋にバスタオル置いてきてしまったんですね。しかたがないからタオルで拭いて、まあ浴衣を着込めば直に乾くでしょう。それに旅館は暖房がしっかり効いていますから、湯冷めということもなさそうです。
食事は部屋でではなくて、大きな広間で他の宿泊客と一緒になってとるのですが、まあ一緒といっても同じテーブルということはありません。テーブルはグループごとにわけられて、私が食卓に着いたときにはもうほとんどの食事は用意されてありました。
席に着けば、鍋、土瓶蒸しを熱する火がつけられました。食前酒が用意されて、食前酒は果実酒。鍋、土瓶蒸しの火は燃え続けて、あれらは消えたら食べごろでしょう。だからそれまでに刺し身や蟹をいただきます。
私は、ずいぶん前の話ですが、スーパーの水産で働いていたことがあるんですね。パック詰めやラップかけが主な仕事でしたが、思えばこのときに魚を下ろす技術を身に付けたのだっけ(そしてすでに失伝した)。このとき身に付けたのは技術だけじゃなくて、魚に対する知識やなんかもやっぱりついて、でこんなふりをするならさぞや詳しいかというと、残念こちらもすでに忘却の彼方です。
あの蟹、なんて蟹だったのかね。でもまあともかく、甲羅はきちんとはがしてあり、蟹味噌、身をしっかり食べたら次は脚です。蟹が新鮮だったのか、身離れがよかったのがさいわい。なにしろ私は蟹がそれほど好きではなくて、なんでかというと殻むくのが面倒くさいというだけの話なんで申し訳ないんですが、でも今回の蟹はそれほど面倒くさいとは思わなかったですよ。関節から折って、包丁の入ったところを爪で押し割るようにすると身が綺麗にとれます。食べる、おいしい。よかった。ええ、おいしくいただけました。
面倒くさいといえば海老もそうですね、甘エビが出てきて、生もあれば、味噌汁にも鍋にも入っていて、これ、殻をむくのが面倒くさい。けど、おいしかったです。
私はいつもいっていますが、温泉旅館とかでは食べ切れないほどの料理が出されたりすることがあって、あれがすごく嫌だと。ですが今回の旅行では、確かに大目であったとはいえ、充分に食べ切れる量で、ご飯もいただいて、デザートも食べて、よかった、安堵しました。
どれほどきれいに食べたかは、私の蟹を見た中居さんの言葉が端的に物語っています:合格! ええ、それはもうきれいに食べたようですよ。
ホテルに戻る直前、日本酒とつまみを買ったという話はしましたね。じゃあ、こんばんは酒盛りか! というとそうはならないのが私らしいというべきか。部屋に戻るももう布団がのべてあったので、適当に潜り込んで、今から風呂にいくのも面倒くさいなあ、『燃えよ剣』の続きを読みながらだらだらと時間を過ごして、ああ、眠くなってきましたよ。
寝てしまいそうになる前に歯磨き。その後再び布団。時間としては十時といったところでしょうか。うとうとと眠りはじめたところに、別室から電話がかかってきて起こされました。枕元の受話器を取ろうと手を伸ばして、上げた瞬間に取り落とし、もしもし問い掛けてももう電話は切れていたからそのまま受話器を下ろしました。
そんなわけで初日は終了。しかし、私は旅行にでもいかないことには早く寝ない模様です。
同行者から旅の写真を提供してもらえました。ありがとう。