いいギターを欲しいという思いが募って、なにをどう考えたか、無謀にもオーダーに踏み切ってしまった。オーダー先はアストリアス。アストリアスギター取り扱い店であるロッコーマンを訪れ、オーダーしたギターとははたしてどういうものであったのか。
実は私は派手なものは好きではないのだ。どちらかといえばオーソドックスなものが好みで、その上地味であれば嬉しい。マーチンでいえばD-28みたいのがいい。D-45となると見た目の派手さに負けてしまいそうで、持つ気になれないのだ。いやだからといって、D-28なら勝てるというつもりはさらさらないので、ここはもう外見の話だけ。
そんなわけで、いい材料で作ったドレッドノート、極力装飾はなしの方向でという、極めていい加減な発注をしてきたのだった。一応自分の思っているのは、インレイを全部排除するというもの。感じとしてはD-28みたいになるんだと思う。指板上のポジションマークもなくしてもらうようお願いしたので、きっと恐ろしく地味なギターに仕上がってくるに違いない。
指板のパーフリング(バインディング)はあってもいいなと思っていたが、職人さんの解釈次第ではなくなるかも知れない。まあ、なかっても気にしないので問題はない。ことによるとボディのパーフリングもなくなるかも知れない。これもまたできあがっての楽しみだろう。音さえよければ、パーフリングの有無など気にならない。
さて、D-28といえばヘリンボーンという人も少なくないようで、ヘリンボーンをあしらったギターはたくさんある。もちろんアストリアスにもヘリンボーンを使ったモデルがあって、そのものずばりヘリンボーンなんてのもあるくらい。ヘリンボーンの人気が分かろうというものだ。けれど私はマーチンに憧れを抱いた世代ではないし、ヘリンボーンに関しても同様だ。なので、ヘリンボーンの飾りがなくてもかまわない。
私は、今も昔もそうなのだが、あまりいろいろ考えたくないのだ。ギターに関してなら、指と弦の関係だけでたくさんだ。材料がどうとか、細工がどうとかいいだすと、選択肢が多すぎて迷ってしまう。迷うのは面倒くさいので嫌いなのだ。そもそもオーダーしようと決めたのは、いいギターを作ってくださいといえばきっと作ってくれるに違いないという信頼感があったためだ。いいギターの条件は職人が熟知している。なにも知らない私がこざかしくあれこれ指図するより、ガツンとお任せしたほうがいいのができるというものだ。
そうした結果、装飾細工はなし、ポジションマークもなし、材料にしても、いい材料使ってくださいとお願いするだけで、種類は特に定めなかった。唯一ハカランダかインディアンローズかを選択する必要があったが、これにしても迷いなくインディアンローズウッド。ハカランダには確かに魔力がありそうではあるが、それならなおちゃんとしたギター奏者の手に落ちたほうがいい。ただでさえ希少な材なんだから、ちゃんと分かる人の手に渡ったほうがいいに決まっているのである。
ただ一点二点くらいは指図がましくお願いしたところがあった。それは指板幅とペグの種類である。
私は、一般にストローク向きといわれているドレッドノートを選んだにも関わらず、指板幅を45mmして欲しいと注文した。基本的に指弾きでストロークすることがほとんどないので、広めの指板のほうが都合がいいと考えたからだ。
ただこの注文は、思ったよりも簡単ではないようだった。アストリアスには指板幅45mmのモデルがあるので簡単だと思ったのは素人の浅はかさであった模様。けれど無理という返事はなかったので、どういう風にできあがってくるか実に楽しみである。
さて、私にしても指弾きでドレッドノートを選んだのは英断であったのだ。今弾いてるのがアリアのドレッドノートだから次のもドレッドノートという訳ではないのである。これはこれで悩みはしたのだ。
指弾きにはちょっとボディが小さめのOMだとかOOOが向いているというのは知っている。特にエリック・クラプトンがアンプラグドでOOOモデルを使って以降、その傾向は強まっている。けれど、昔フォークブームだったときは皆普通にドレッドノートギターを指で弾いてたりしたし、ドレッドノートよりも容量の大きいジャンボギターを指で弾いてる人もざらにいるじゃないか。
とまあそんなわけで、あえてドレッドノートにしたんだった。ギターソロではなく伴奏に使いたいという考えが強かったのも理由のひとつだった。
そしてペグ。アストリアスはGOTHOのペグを使っているのだが、モデルによってロトマチックタイプだったりオープンギアタイプだったり、バリエーションがある。そんなわけでこの2種類のうちどちらかを選ぶことになったのだが、こればっかりは即答だった。
つい先日ペグが壊れて、新しく付け替える機会があった。メーカー不明のロトマチックタイプからグローバーのロトマチックに換えたのだが、同機構のペグだというのに音が変わってしまった。グローバー製はちょっとだけ重く、しかしその少しの違いが大きく音を左右する。正直大差ないだろうと思っていたので、とにかく驚いた。
調べてみれば、ペグは軽いほうが鳴りがいいらしい――。とそんなわけで、オープンタイプのペグをお願いした。応対してくださった方も、ヘッドは軽いほうがいいとおっしゃっていたので、こればっかりは間違いない。
製作はだいたい4ヶ月かかるとのことなので、完成は多分10月から11月くらいになるだろう。いい材でできたいい仕上げの地味なギター。おそらくギターの形態と木の質感が美しくマッチしてくるんじゃないだろうか。そしていい音がする! なんにしても楽しみではないか。
後4ヶ月。後れを取っては楽器に申し訳がたたないので、少しでも上手になるよう練習しよう。少しでも楽器の質に追いつけるよう頑張ろう。
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