楽器というのはある程度弾いてみないとわからないものだから、とりあえず6時間ほど弾いてみた。わずかな時間ではあるが、とりあえずの所感雑感をつづってみる。
つくりは驚くほど丁寧で、いやこれまでしっかりしたつくりのギターを持ったことがないからそう思うだけかも知れないんだが、ともかくD. カスタム Sのつくりがしっかりしていることは間違いない。これから書くことを読んで、そんなの当たり前じゃんとか突っ込んではいけない。むしろ、これから書くことは、入門向けの安価なギターが備えていない点であると諒解していただきたい。
ネックが若干薄いということはすでにいった。その薄いというのは主にボディ側のことであり、ヘッドに向かって分厚くなるわけはないから、ほぼネックを通して同じくらいの厚さが保たれていると考えていいだろう。
ネックの太さはナット幅が45mm、ボディとの接合箇所(14フレット)は56mm。AD-35がナット幅43mm、14フレットが53mmであるから若干太い。といってもこれはナット幅45mmで注文したからかも知れない。ソロ プレミアムと同じナット幅なので、これからいうことはソロ プレミアム購入を考えている人には、多少のヒントになるかも知れない。
ネックを握っても太いとはまず感じない。これが45mm幅といわれていなければ違いに気付かないかも知れないとは、前にもいった通り。実際に弾き続けてみても、この印象は変わらなかった。ただ、ハイポジションの指板は多少幅広に感じられる。けれど弾きにくいということはなかった。『ギター・テクニック・ノート』のスケールの章に掲載されている練習曲では、12フレット周辺(第9ポジション)で第6弦まで使う上下動がある。それが違和感なく弾けたのだから、問題はないといっていいだろう。
指板をヘッド側から見てみれば、驚くほど平坦である。少し純反りしているのが普通かと思っていたのだが、だとすればAD-35は反りすぎていたのかも知れない。
フレットワイヤーは細め、手持ちのギターすべての中で最も細い。ともない高さも低めである。フレットの高さはきれいに揃えられているため、どのポジションで弾いてもまったくびりつきとか生じない。フレット両端はきれいに処理されているので、指に引っ掛かりを感じるということがまったくなかった。
ハイポジションでの演奏性に関しては、カッタウェイのない普通のドレッドノートであるため普通である。今まで弾いていたギターと多少の違いがあるためか少々しっくりこず、けれど数日で慣れるだろう。
ペグはゴトー製のオープンギアを付けている。このもとになっているウェバリーが多分そうなのだろうが、つまみ部分がちょっと小さく感じられて回すときに違和感が感じられる。だが精度の高さは申し分なく、チューニングはやりやすい。
ナットの滑りに関しては、チューニング時に例のカキーンという音がすることがあるので、ちょっと嫌な予感。AD-35では、第3弦の溝が狭かったらしく、チューニングが非常にやりにくかった。巻き上げても音が上がらず、ナットとペグの間で異常に張力が高まり、何度も弦を切った。いまのところチューニングは数度しただけであるが、今後同じようなことがあればいやだなあ。ともあれ、いまのところペグを巻き上げても音が上がらないといったことはないので、取り越し苦労であってくれればよいが。
トップ材は多分ジャーマンスプルース(みてもわからないから多分といってるだけで、実際ドイツ松であるのは間違いないだろう)。木目は非常に緊密で、まっすぐ走っている。全体に、横方向にかげろうのようなおぼろがわいていて、これはラッカー塗装だからか、あるいは材の特性なのだろうか。細かいことはわからないが、非常に美しいなと思う。恐ろしくてよう触れられない。
サイド及びバックはインディアンローズウッド。ネックはマホガニー。うん、大変きれいだよ。
指板のエボニーが非常に密であるということはすでにいった通り。
ところで、メイプルのパーフリングが、まるでローズウッドにしみ込むように密着していて、つくづく職人の技術というのはすごいと思う。以前から店頭でこの接合部分をみては、すごいなあと思っていたんだ。
発音は非常に素直に出る。弾いてみてなんだか物足りないと思ったのは、すべてのポジションで大変均一な発音が得られるからで、以前の楽器はむらがあったんだなあとわかった。以前の楽器は第4弦にさわりがでるので、ちょっといらいらしていた。そういうことは今後ないのかと思うと、精神衛生にも非常によろしい。
はじめ、単音での発音練習をしていたときは、随分弦ごとに違いがあると思っていた。第2弦がこもったように感じられて、ちょっと嫌だなと思っていたのだったが、2時間弾いたら状況ががらりと変わってしまった。
どの弦にしても非常によく音が出るようになった。初日、低音はあまり感じず第6弦でも中音域みたいな感じがするといっていたが、それは大嘘だ。低音は非常に豊かに出て広がる。バーンと出てこないだけで、空気に柔らかくしみ込んで広がるような響き方をする。うわあ。
スケール練習をしてみると、各弦のバランスが非常によくとれていることがわかる。昇って降りてを繰り返して、音色にばらつきがない。ハイポジションに向かっても太くしっかりした音がする。第1弦も、他の弦に負けない響きをしている。弱々しさが感じられない。
よく響くせいか共鳴もよくする。離れた弦がつられて鳴って、もっとミュートに上達しないといけない。以前から気をつけていたつもりだったが、まだまだ全然駄目だ。もっと気をつけるようにしよう。
アルペジオでもコードでも、単音ではわからなかったすごさが感じられる。単音では、普通にいいと思っていた。けれど和音になれば、単音で聴いていた以上にすごい。各音がうまく溶け合って、高次倍音まで響いているのがよくわかる。
ストロークすると、鳴りに軽さが感じられる。けれど腰があるから腑抜けたようには聴こえない。アルペジオも、軽く弾いて響きの像がしっかり形成されるから、がむしゃらに弾かなくていいからいい。
和音を弾くとき、弦と弦の間が広めだからちょっと弾きにくい。AD-35は弦間約10mm、新しい楽器は約11mm。1mmも差は大きいと感じる。
隣り合った弦で和音を弾くのは問題ない。問題があるのは離れた弦で和音を弾く場合。例えば、先ほどいったスケールの章の練習曲。この曲のカデンツは、B7-Eと進行する。タブで書くと以下の通り。
C.2 E|--------|0-------|| B|----4---|--------|| G|----2---|1-------|| D|----4---|2-------|| A|----2---|--------|| E|--------|0-------||
最後の和音、第1, 3, 4, 6弦と弾く1, 3の距離がつらい。弾けなくはないが、強くなりすぎたり弱くなりすぎたり、うまくコントロールできない。ああ、もっと練習しよう。
ただこの弦と弦の広いのは、単音を弾く場合にありがたい。スケールをアルアイレで弾くとき、幅が広いため間違って隣の弦まで触れてしまうことがなくなった。いやまだ多少は触れるのだが、もうじきすれば問題なく弾けるようになるだろう。大変ありがたい。
テンションは低いなんていっていたが大嘘。やはり弦長なりのテンションはあって、けれどそのテンションに見合った音が返ってくるから、結果的に強いとは感じない。強さに対して返りが弱いと、実際以上にテンションを強く感じるのだろう。弾いた分が弾いただけ返ってくるような感触であるため、楽に弾けると感じる。
強く弾くとばちんといってよくないといっていたが、これは強く弾けないというわけではない。うまく力を加えてやると驚くほど音がしっかり出る。今の力みがとれると、もっともっと出るんじゃないか。弦はしっかり抵抗感を持って指に触れてくるので、この抵抗にバランスよく力を加えてやればかなり鳴るようになると思われる。
楽器を買ったとき、エンドピンがはずされているのに気がついた。これはストラップを使うときにねじ込んだらいいのか聞いてみたら、使わないときははずしておいたほうがいいとのことだった。エンドピンがつけっぱなしだと、なんかの弾みで床にあてたときなんかに側板を割る、ひびを入れる怖れがあるという話で、確かになるほどその通りだ。使った後ははずすようにして、でないととれなくなるかも知れないからと聞いて、でもおそらく私はエンドピンを使うことはないだろう。
だって足台使って弾いてるし、歩き回りながら弾くこともなさそうだしなあ。
将来的に状況は違ってくるかも知れないけれど、とりあえずエンドピンなしが基本形と考えていいだろう。そこにあいた穴をのぞくと、ネック基部の焼き印が見えて面白い。
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