新しいステージといっても、別に舞台に上がるわけじゃない。
このごろ、どうにも気合いが入らないからというので、思い切って明るいうちに七時間ほど練習してみたんだわ。もちろん休憩を入れないと持たないので、実練習時間は五六時間ってとこだろう。しかし、これだけまとめて練習すると疲れる。なにが疲れるといっても、肉体的な部分にしてもそうだが、脳がつかれる。頭がぼうっとする、くらくらする。そんな状態になるまで練習してみたのだ。
これだけ弾くと、さすがにもう弾こうという気にはならないのだが、それを押して弾いてみた。ガットギターに持ち変えて、セコのアップダウンをしてみて驚いたのは、その鳴りのすごさだ。今まで弾いていたのはドレッドノートだったから、弾き込んでうんぬんという理屈は通用しない。とすると、これは奏者が原因だな。そう結論した。
よくスポーツなんかでは、くたくたになるまで練習して力みを取るなんていうけれど、まさにそんな状態だったのだよ。手に力なんて全然入らず、いつも力が入って上がり気味になる肩も、まったく脱力して自然な感じだった。なのに鳴る。いや、だからこそ鳴るのかも知れないな。実際音は面白いように出ている。見違えるようだ。
再びドレッドノートに持ち変えて、スリーフィンガーの練習をしていたら、これもなかなかにすごい。力が抜けているから、力で弾くということがない。なのに音はぱーっと広がるように鳴って、重なり合った音も綺麗に調和して溶け合っている。うわあ、すごいわと思った。油断をすると指はめためたになるから、ぼうっとかすむ頭を駆使して、全神経を指先に集めるみたいにして弾いていた。
とまあ、こんな感じで、新たなステージに踏み入れたような気がしたんだな。けれど一晩寝たから、きっと今日は元に戻ってる。だから実際に進歩があったとしても2mmくらいなもんだろうと思うよ。