フランス語の授業風景を綴る「一念発起フランス語」ではありますが、今回はちょっと用事があってお休み――いや、大遅刻させていただきました。その用事とは? NHKフランス語会話における我らが人気歌手、ドミニク・シャニョン氏出演のコンサートが開催されるのであります。行くか行かぬか、正直迷いました悩みました。もうじき最後、この後続けるかどうか分からないフランス語授業を行かないというのは忍びない。少しでも長く出たい、多く出たい。それが信念なのであります。けれど、ドミニクのコンサートも行きたいんだよう。天秤にかけてかけてかけた結果、ドミニクコンサートに出た後、大返しでフランス語学校に行くことに決めました。だから、大遅刻。欠席ではないのであります。
京都シャンソンライブ、今回の出演者は、皆さんご存じのアコーディオン奏者パトリック・ヌジェ氏と我らがドミニク・シャニョン氏、そしてシャンソン歌手、波多野まきさん。開場は昼十二時で、まずはフレンチのランチをいただきます。ランチは、蕪のポタージュ、海老と帆立貝柱、鮮魚のパイ包み焼き、そしてコーヒー。おいしかったですよ。特に僕は、蕪のポタージュがお気に入りでした。量はちょっと少なめ。ですが、あんまりお腹一杯になって鑑賞中に寝るでは困ります。だから、きっとあれくらいでよかったのでしょう。実際、食べてる最中は今にも寝そうでした。きっとワインも手伝っていたと思います。
さてさて、食事の前に、懇意にしてくださっているサイト、ドミニク・シャニョンの歌が聴きたい!〜Chante! Dominique, Chante!の制作管理人、ぶりさん御一行と挨拶をかわしました。以前のコンサートでもニアミスしてたのですけど、その時は会えず仕舞だったのです。なので今回は出会えるだろうかと期待していたら、あっさりと会えました。ありがたいことです。ぶりさん提供の情報によれば、残席はまだありとのことなので入りは一体どうかと、一参加者の身なれど心配していたのですが、結構人が入っていて安心しました。九十人くらいは動員されてたんじゃないでしょうか。ヌジェ氏、ドミニク、波多野さんそれぞれのファンがいらっしゃるようで、シャンソンファンの裾野の健在なること、ちょっと嬉しいなあ。
食事が終わってしばらくの後、パトリック・ヌジェ氏とドミニクが出てきて、演奏がいよいよはじまりました。レストランで、ステージが近いということもあって、ちょっと感慨深いですよ。演奏家と目が合ってるということを実感できる距離。ああ、ドミニクがこっち見てるぜ。そんなことも分かるのであります。いや、本当にそうかどうかは定かではないんですけど。
後に波多野まきさんが合流して、三者で演奏会は続けられます。以下に、その曲目を書き上げてみましょう。
曲目の末尾のアルファベは、D—Dominique、M—Maki、P—Patrick、メインの歌唱者の表示となっております。最終二曲がアンコール。スタンダードなナンバーから、意外なものまでいろいろでいいでしょう? まさか僕は、この席で、このメンバーで、さだまさしを聞くことになるとは予想しておりませんでした。
さてさて、今コンサートでの僕の収穫はというと、偏に波多野まき嬢に尽きるのではありますまいか。天然っぽい可愛いしゃべり方、なんか浮遊した感のあるお嬢さんなのですが、歌えば全然違いますよ。『風に立つライオン』は、残念ながら日本語の語感がこれでもかと支配する語りものになってるもんだから、こうして歌と聞くには少々微妙な違和感があるのでありますが、パトリシア・カースの『ジョジョ』ったら、それはもういかしていた。日本語詞で聞くのは初めてだけれど、別におかしくない。強く訴えるところがありますですよ。ただ残念なのが、『ラ・ジャヴァネーズ』が、原語歌詞が持つ言葉の響きが失われてしまっているので、ジャヴァ語という言葉遊びに立脚するこの歌の味わいが少し薄れて残念。普通の歌となってしまっていました。
さらに注目は、パトリック・ヌジェ氏のネタの数々。やっぱり決まったネタというものはあるものでして、パトリスギャグとか日本語で禿げた話とか、『マイウェイ』オリジナル歌詞の悲哀だとか。聞くのは二度目なんだけど、それでも笑うんだからやっぱすげえや。でも一番笑ったのは、アンコールは最終曲『オー・シャンゼリゼ』でしょう。皆さん、一緒に歌ってください。日本語で。オー・シャンゼリゼ、オー・シャンゼリゼ。で、この先で皆が歌えなくなって、「日本語難しいです」と続けるのが決まりなのに、あろうことか何人か歌えちゃった。もちろん僕も歌いましたよ。多分、ここで歌えたのは、ドミニク修道会の面々ではなかったか? ドミニクを追って転々するうちに、ついに歌詞を覚えちゃったのか? 修道会士の逆襲か? まさしく、士別三日即更刮目相待。腰を折られたヌジェ氏は、京都の人は東京よりも優秀ですってごまかしてた。でも、こういう転身を打てるというのは、やっぱりヌジェのすごさですよ。日本語で笑わせて、予想外の事態にも臨機応変で対応できる。恐れ入りました。
ドミニクについてを忘れてはなりません。客席の一番前には顔見知りみたいになったのがたくさんいるものだから、彼、サービスしまくりでしたよ。歌はといえば、やっぱりうまいです。基本的に「ドミニクと歌おう」で歌ってるもの中心だから、知ってる歌ばかりで聞きやすく、フルコーラスが途切れずくるからやっぱり嬉しい。ちょっとこもりがちだと思う彼の声ですが、それでもどんと迫ってきますよ。本日の白眉は、『でも、だれがイタチなんや?』だったでしょうか。伴奏が-1になっちゃうのが残念ですが、それでもかなりのりのりで、みんな立って立ってというゼスチャー付き。もちろん、日本人だから大半は立ちません。僕は立ちました、途中から。でもこういう時に立って踊れないというのは残念です。同じ阿呆なら踊らにゃ損損といいます。けれど、立たない。ここに僕は日本人の奥床しさを知る思いでした。
終演後、ロビーに出ればヌジェ氏、ドミニクのサイン会になっておりました。ちょっと時間をずらすために雑談なんぞをしながら、そうしたらそのうちのひとりがタイムオフィスの社長さんだったらしい。全然気付きませんでした。CD売ってたので、買いました。ヌジェ氏のと波多野さんの。ヌジェ氏のCDには『リラ駅の切符切り』が入っていて、これが決め手となりました。えい、御祝儀だ。両方いただこう。わたし、こんなふうに気っ風はいいんですが、全然こういうのが生きない。いや、愚痴っちゃいけません。ヌジェ氏に、CDライナーノートにサインをしてもらうのでした。背が高いね、どれくらいですか。180センチです。フランスでは1メートル80といいます。そうですか(で、1メートル80と言い直す)。また楽器なぞ持ってたもんだから、それでちょっと会話。楽しい。ヌジェさん、活動頑張ってください。
で、ドミニクですよ。彼、僕のこと覚えてくれてたみたいです。いやあ、超嬉しいですね。僕はシャイなもんだからあまり話せなかったんですが、辞書にサインをもらいました。いやあ、辞書にもらったやつははじめてじゃないか? ある意味罰当たりな気もするのですが(僕は本には決して書き込みをしない)、フランス語辞書にドミニクサインなら、むしろ値打ちでしょう。サイン会の後も、引き続いてお話。楽器を見て、なんで参加しなかったの? 弦が切れてるんです。みたいな話もしました。しかし、すごくいい人ですよ。ありゃ、演じてるとかじゃないですね。本当の本当に、très sympaな人ですよ。
今日は、片仮名でサインをし、平仮名も書くドミニクを見られた。写真もいっぱい撮った。昨日の三隣亡みたいな一日が、なんとはなしに浄化された気がします。ありがとうドミニクさん、あなたはわたしの友達です。
演奏会を後にして、フランス語授業へと駆けつけました。したら、もう授業は残すところ三十分。なんか失業したおじさんの悲哀を描いた映画を見ました。なんか他人事じゃないって。帰りには、先生と話しながら。先生は、ヌジェ氏を御存じでした。いや、お知り合いではないと思います。やっぱり、ヌジェ氏は有名なんですよ。CDもいい感じ、買ってよかったです。
< もうすぐお別れ、悲しいなあ 終わるか否か、それが問題だ >
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