弦を替えた話のついでにブリッジまわりのこともいっておいたらよかった。単体で取り上げるにはちょっと小さな話で、それほど真新しい話があるわけではないが、せっかくだから書いておこう。
アストリアス D. カスタムのブリッジまわりのこと。
私は弦の交換時には、まずすべての弦をはずし、指板をよく拭ってから、第4弦から3、5、2、6、1と順に張っていくことにしている。ギターのサドルはただ弦の力で押さえつけられているだけだから、簡単にはずれるというので、やってみたら本当に簡単にはずれた。やってみるもなにも、弦をはずした時点で、サドルの骨棒はちょっと横にずれていたんだが。
D. カスタムはロングサドルを採用していて、なのでサドルは横方向にスライドする。ブリッジに真横一文字に溝が切ってあるため、サドルを受ける部分がないのが原因で、このずれるというのは精神衛生上あんまりよくないね。というのもさ、弦を張るときにもしずれてしまったらとか思うと、妙に神経質になってしまう。実際にはそんな心配全然いらないんだが、まあ私はまだ慣れていないので、今ばかりは仕方がないと思おう。
サドルがはずれることになぜこんなに神経質になるのかといえば、最初の愛機Aria AD-35のサドルははずれなかったからだ。ギターをひっくり返そうと、びくともせずブリッジにくっついている。多分このギターのサドルは接着されているんだろう。だから簡単にはずれるサドルというのが真新しかったのだ。
アストリアスのサドルは、エッジにとんがった感じがせず、なめらかな曲線を持っている。そのため堅牢に感じるし、見た目にも美しい。けれどこれでちゃんと調整されているのだろう。オクターブの狂いを確かめてみると、第2弦に若干差があるように感じられる(押弦がハーモニクスに対して少し高い)が、他の弦は問題なかった。このへんは、これからおいおい見ていこうと思う。
ブリッジに弦をとめるために開けられているピンホール。このピンホールにはアストリアスの工夫がある。まず一点、ピンホールをブリッジと平行に並べること事で、平均的テンションを作り、スムーズなチューニングを実現
する。これは実際に目に見えてわかることで、この考えは理にかなっていると思う。
そしてもう一点、駒ピンの穴からサドル方向に溝を作って弦のテンションを柔らかくし、かつピンが飛んでもすぐに弦が抜けないように
している。
以前Webで読んだ記事に、ギターの鳴りの変化には、弦によって削られることでできるピンホールの溝が関わっているのではないかという仮説が紹介されていた。溝ができることで、弦のブリッジへの接触面が増え、結果表板への振動伝達が効率良く行えるのではないか。仮説に基づく実験も行われていて、結果は実際良好であったそうだ。なので私はAD-35のピンホールを見ては、これもいずれそうなると思ってわくわくしていたのだった。
この記事の所在は残念ながら忘れてしまったのだが、この記事をすでに読んでいた私には、アストリアスのピンホールの工夫が大変好ましいものと思えた。アストリアスの説明では、テンションの柔らかさを得るためとあるが、それ以上の効果を得ている可能性がある。そんなわけで私は、この工夫に興味津々であったのだ。
私は溝のないアストリアスギターと、溝のあるものを比べたわけではないので、実際のところはわからない。けれどこうした細部への信頼感は、プラセボとして働いてくれるんではないかと思っている。
さて、ピンを抜いて弦を取り換えているとき、思ったよりも穴が大きく感じられて、無理に押し込むだとか、そういう感じがなかったのは嬉しい。AD-35では、特に第6弦が厳しかった。駒裏の当て木が削られていたのかも知れないが、ペグを巻き上げるとピンが浮いてきて怖かった。このD. カスタムではそういう心配がない。弦を穴に通して、余裕を持ってピンをさすことができる。こういうところに不安がないのも嬉しいことだ。
アストリアスのナットは、軽く接着剤でとめてあるだけだという話で、サドルと同じように簡単にはずれるようになっているそうだ。もしかしたらはずれるかと思ってわくわく、いやどきどきしていたが、私の楽器のナットはしっかりくっついているようだ。
安心。いや、ちょっと残念だったろうか。まあこんなのはどうでもいいことなんだけれど。
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